エッジコンピューティングの逆襲 特集

日本版の「Amazon Go」は普及するのか、問われるAIカメラの“価値”と“コスト”MONOist 2021年展望(2/2 ページ)

» 2021年01月08日 10時00分 公開
[池谷翼MONOist]
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無人決済システムは「省人化の手段」と割り切る考え方

 一方で、異なる考え方もある。AIカメラを用いた無人決済システムを開発するTOUCH TO GO(TTG)の代表取締役社長である阿久津智紀氏は「レジレス決済はあくまで小売業の労働力不足を解消する、省人化の手段と捉えている。データ分析などの機能を提供する予定は現時点ではない」と語る。

目白駅にオープンした「KINOKUNIYA Sutto」の外観*出典:富士通[クリックして拡大]

 TTGは2019年に設立されたJR東日本系列のスタートアップで、2020年3月にはJR山手線の高輪ゲートウェイ駅構内に、無人決済システムを導入した第1号店「TOUCH TO GO」をオープンした。同年10月にはJR山手線の目白駅改札外に、紀ノ國屋と共同で「KINOKUNIYA Sutto」を開業。同店では、40m2の店内に約30台のカメラが顧客と商品のひも付けや、手に取った商品の品目判定などを行う。なお、同店舗では専用の決済エリアで会計を済ませる必要があるので、「レジレス」ではない。カメラは自社開発のものではなく、日立LGデータストレージの製品を使用した。

KINOKUNIYA Suttoの店内写真*出典:富士通[クリックして拡大]

 阿久津氏は「経営に苦しむ飲食店や小売店をアシストするのが当社の役割だと考えている。このため、こうした業界の一番の困り事である、人手不足の解決に専念したい。また、そもそも経営に苦しむ店舗が高額なシステムを導入する余裕はない。こうした考えもあり、機能を限定することで約50〜80万円程度と、他社に比べると低価格帯での導入を可能にした」と説明する。

一定以上の店舗面積では導入が困難か

 ただ、店舗の大きさが一定以上の小売店舗では、顧客が手に取った商品のトラッキングや、顧客と商品のひも付けを瞬時に行えるほど高性能なAIカメラを大量に配置することはコスト面から困難だ。このため、顧客自身がバーコードを読み取って会計を済ませるセルフレジの設置などを通じて、省人化に取り組む店舗も多い。

 こうした中で、一工夫加えた“セルフレジ”を提供しているのがトライアルカンパニー(以下、トライアル)である。2020年7月、同社は「スーパーセンタートライアル長沼店」を、AIカメラをはじめとするデジタル技術を多数導入した“スマートストア”としてリニューアルオープンした。

 同店舗内の天井レールには、同社の子会社であるRetail AIが開発したAIカメラが688台(オープン当時)も並ぶ。ただ、これらのAIカメラが取得する情報は「欠品情報」と「人流情報」の2つだけで、決済に関わるものではない。代わりに決済業務の効率化に貢献するのが、セルフレジ機能を搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」である。

 顧客はトライアル専用のプリペイドカードを事前に取得し、チャージ(入金)を済ませておく。そして、購入したい商品のバーコードをスマートショッピングカートの読み取り部分にかざすと合計金額が加算されていき、最終的に専用出口から退店した際に、プリペイドカードから清算されるという仕組みだ。

 Retail AI 代表取締役の永田洋幸氏は「長沼店のような店舗規模で、AIカメラを使用した無人決済システムを実現するのは現実的ではない。そのため、決済業務を効率化する役割はスマートショッピングカートに任せるとともに、AIカメラはいかに機能を単純化するかにこだわった。実用面を考えると、AIカメラを(むやみに)多機能化する必要性はなく、むしろ機能を減らして、AIの演算量を減らし、カメラの運用コストを低減する方が優先度は高い」と語った。

 

2020年7月にオープンした「スーパーセンタートライアル長沼店」[クリックして拡大]


 無人決済システムに高度なデータ分析機能を付与すれば、その分、高付加価値化は実現できるものの、導入や運用コストは増加しかねない。こうしたコスト増加をどこまで許容するかは、導入先店舗の業務効率化や省人化を重視するか、それとも顧客体験(CX)の最大化を通じた店舗売り上げの拡大を目指すかという、無人決済ソリューション提供企業側の姿勢によって変わってくるだろう。

 国内での無人決済システムはまだ草創期であり、AIカメラが果たす役割もその中で変化していくと思われる。今後、国内で無人決済システムがPoCの枠を超え出でて本格的に普及を果たしていくためには、無人決済システムのソリューションを提供する企業も、関心を寄せるリテール企業も、AIカメラを通じて実現し得る“価値”と“コスト”の関係をより深く考えていく必要があるはずだ。

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