UAV Toolboxのもう1つの特徴が、ドローン開発に必要な機能が全てパッケージ化された統合開発環境という点だ。アルゴリズム開発、シナリオシミュレーション、実機接続とアルゴリズムの実機実装、フライトログ解析を全てUAV Toolbox上で行える。
「ドローン研究のステークホルダーは、機体本体を開発するドローンメーカーと、ドローンを用いた保守点検ソリューションを提供するドローンサービス開発企業に大別できる。両者には『ドローンアルゴリズムの新規設計を、ハードウェアを使わずにテストしたい』という共通のニーズもあり、こうした声を受けてモデルベース開発に対応したUAV Toolboxを設計した。一方で、ステークホルダーごとに異なるニーズもある。メーカーは新規システムをできるだけ低コスト、かつ効率的に開発できるツールを、また、サービス開発企業は新しいソリューションを柔軟に構築して、飛行テスト後にフライトログの解析作業が満足に行えるツールを求めている。統合開発環境は、こうしたユーザーごとに異なる幅広いニーズに対応可能だ」(能戸氏)
アルゴリズム設計ではUAVガイダンスモデルが用意されている他、UAVモーションプランニング機能などが搭載されている。これによって、自律飛行アルゴリズムのシミュレーション用モデルや飛行計画が容易に設計できる。
シナリオシミュレーションについては、CuboidやUnreal Engineをベースとした3Dシミュレーション環境下で、LiDARなどのセンサーデータを含む飛行テストが行える。ドローンによるセンサーを通じた周囲環境の認知機能と、定義済みのドローンの飛行計画を統合して、正常に動作することを確認した上で、実機実装を行う。
「MATLABとSimlinkのオプションツールには、機械学習や強化学習などAI(人工知能)開発に特化したものがある。それらとUAV Toolboxを連携させることで、AIを搭載したドローンのシミュレーション環境での飛行テストも行いやすくなる」(能登氏)
実機接続については、PX4 Autopilotへのツールチェーン連携に対応しており、シミュレーション環境からドローンへの実機実装をシームレスに実行できる仕組みになっている。また、フライトデータ解析では全フライトデータの中から特定の時間のみにフォーカスして、その時間帯だけを解析することも可能だ。
この他、アルゴリズムのレファレンスサンプルとして、ドローンによる荷物配達用のシミュレーションサンプルを用意した。「産業用ドローンの用途は、現状ではプラントなど建造物の保守点検が多い状況だが、配送事業での実用化を目指したドローン開発も増えてはいる。配送用途の自律飛行アルゴリズムは、かなり高度な水準で品質や安全性が要求される。飛行計画の策定にとどまらず、周囲の木や鳥などを認識しつつ機体制御を行う必要があるからだ。当然、手を加えれば他の用途にも転用できるので、高品質かつ高安全なアルゴリズムを試用してもらいやすいと考えた」(能戸氏)。
能戸氏は今後の自律飛行ドローン開発の展望について、「ドローンの認知や行動計画といったところを含めた総合的なテストの実施が重要になると考える。特に、今後、街中での実用化を目標としたドローン開発も進んでいくと考えられるが、その中では自己位置推定や環境認識などの認知アルゴリズム開発や飛行計画の設定が大きな課題になる。また、飛行しながら機体を制御して、その結果を都度評価し制御にフィードバックする仕組みも開発しなければならない。そこが最大にチャレンジングな部分になる。UAV ToolboxをMATLABやSimlinkと連携させながら活用すれば、こうした高度で高安全なドローン開発も可能になるだろう」と語った。
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