MONOist 新規開発の苦労があったとされていますが、ODM企業やEMS企業との役割分担はどのような形で進めているのでしょうか。
生方氏 心臓部についてはベクノスで設計し、それ以外をパートナーに頼ったという形だ。例えば、「IQUI」の4眼の光学系については世の中にないものだ。そのため、完全新規設計により独自形状を実現した。これまでなかったものであるため4眼の光学系を作るための生産設備も従来は世の中になく、これらの設備もベクノスで設計した。
光学系以外では、パートナー企業との意見をすり合わせて、部品や生産方法などを構築していった。よく「EMSに生産を丸投げすれば簡単にモノづくりができる」というような話を聞くが、ODM企業が既に確立した製品カタログから選んで、一部の機能を追加して自社ブランド製品として出すようなものであれば、可能かもしれないが、新しいものを作る場合は難しい。「IQUI」は、4眼の光学系そのものも特徴的だが、直径16mm(グリップ部)のペン型形状に必要な機能を搭載するために、独自部品などを使っているところも多く、パートナーとアイデアを出し合いながら、求める品質が出せるようにすり合わせる作業が必要だった。
パートナー企業もデジタルカメラ生産のノウハウなどを持ち、工場での生産のノウハウなどがある。一方、生産領域だけでは理解ができない製品技術などもあり、こうした点を、国境を越え、単部品、組み部品などをやりとりしながらWeb会議を通じてすり合わせていった。特に光学系については、メーカーごとの特性に左右されるようなデリケートなものなので、経験値を生かして進めるしかない部分がある。採用する部品も生産側の経験も踏まえて、1つ1つすり合わせて決めていった。ただ、主要部品や材質、加工方法の指定など製品の根幹にかかわるところはベクノスで指定している。
MONOist COVID-19下で制限がある中で問題なく製品発売まで進められたという点については、デジタル技術の活用が大きかったと考えますか。
生方氏 デジタル技術が広い範囲で手軽に簡単に使えるようになってきているからこそ、厳しい環境下でもほぼスケジュール通りに進められた。象徴的なものがWeb会議システムだ。Web会議システムはずっと以前から存在していたが、安定性や遅延などで対面に比べてあまり有効な手段ではない時代が続いた。安定的に手軽に使えるようになったのはほんのここ数年の話だ。そういう意味では2年前や3年前に製品発売を計画し、同じような状況になったとしても、ここまで順調な形で進めることはできなかっただろう。
CADなど設計ツール周辺でコラボレーションを行う機能なども充実し、さらにGitHubのようなオープンソース開発コミュニティーなどでもCAD関連のソフトウェア開発が行われている。こうした環境が整ってくれば、同じ部品を作るにしても生産性が変わってくる。そういう意味では非常に大きな意味があったと考えている。
MONOist これをきっかけにデジタルベースの新たなモノづくりを進めるという考えはありますか。
生方氏 全てがデジタルで問題ないかというとそうではないと考えている。もしCOVID-19が終息し移動の制限がなくなったとしたら、生産立ち上げなどでは現地に行くだろう。その方が早いと感じることが今回のプロジェクトでも何度もあったからだ。
例えば、部品個々では問題がなくても、組み上げて評価して初めて出てくる不具合などが存在する。その場合、個々の部品だけを見ていても真因は分からない。問題の切り分けを行い、根本原因を突き止める必要がある。生産技術だけを見ていても分からない場合なども出てくる。設計エンジニアが製品の思想や設計の意図などを持った上で、製造工程を見ることで初めて分かることなどもある。今回も何度やっても真因が分からなかった問題が、ベクノスのベテラン設計者と、パートナー企業の製造技術者が、暗黙知レベルの相互理解ができたことで解決につなげられた例がある。
デジタルコラボレーションは今後さらに進み、生産工程などモノづくりの工程においてもこの動きはさらに加速すると見ている。しかし、本当に現場で現物に触れることでようやく解決できるものというのは、モノづくりをしている以上残り続ける。そして、その部分こそが、メーカーの差別化につながる本質的な価値だと考えている。ただ、全てが全て、現地現物で行うのは効率性の面で、競争力を維持できない。このバランスをどう取るのかが重要だと考えている。
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