第1段エンジンへのエキスパンダーブリードの適用は、H-IIA初号機打ち上げ直後の2002年に検討が開始された。その後、「LE-X」として要素技術の実証を先行して進め、開発リスクの低減を目指した。計算機の高性能化もあり、LE-7Aの時代に比べて、数値解析によるシミュレーションをより積極的に活用したことも大きな特徴である。
燃焼室とターボポンプの単体試験を行った後、2017年4月からは、両者を統合したエンジンの燃焼試験が始まった。まずは「実機型」と呼ばれる試作エンジンにより、延べ5台を使った燃焼試験を実施。続いて、その結果を設計にフィードバックした「認定型」(フライトモデルに相当)の燃焼試験が、2020年2月より行われていた(表2)。
回数 | 試験日 | 試験時間(秒) | 燃焼圧力(MPa) | FTP回転数(rpm) | OTP回転数(rpm) | 結果 |
---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 2020/2/13 | 101.4 | 9.39 | 3万9992 | 1万6360 | 自動停止 |
第2回 | 2020/2/21 | 95.0 | 10.80 | 4万1499 | 1万7332 | |
第3回 | 2020/3/31 | 100.0 | 10.60 | 4万0910 | 1万7355 | |
第4回 | 2020/4/7 | 6.6 | - | - | - | 手動停止 |
第5回 | 2020/4/17 | 210.0 | 10.60 | 4万1003 | 1万7389 | |
第6回 | 2020/4/25 | 120.1 | 10.50 | 4万0197 | 1万7235 | 自動停止 |
第7回 | 2020/4/30 | 240.0 | 10.59 | 4万0280 | 1万7327 | |
第8回 | 2020/5/26 | 225.5 | 10.87 | 4万0990 | 1万7261 | 自動停止 |
表2 認定型エンジンの燃焼試験 |
今回、問題が発生したのは、この認定型エンジンの8回目の燃焼試験である。終了後の内部点検において、以下の2つの事象が確認されたという。
上記1.の問題は、共振による金属疲労が原因と推測されている。燃焼試験は毎回異なる条件で実施しているのだが、詳細な解析の結果、6回目までの試験で共振条件に合致していた可能性があり、ここで疲労が蓄積。そして6回目以降の試験で、共振による疲労が進行した可能性があることが分かった。
続く2.の問題は、燃焼室内壁が設計値以上に高温化したことが原因と推定された。燃焼ガスは約3000℃という高温になるが、今回の8回目の試験は、意図的に高めの温度で実施していたという。それでも問題がないように設計していたものの、想定よりも温度が上がって内壁が変形し、冷却溝まで達する穴が開いてしまった。
今回、通常より高い温度で燃焼試験を行ったのは、量産時の製造誤差を考慮してのことだ。部品にはそれぞれ、必ず誤差がある。精度が非常に高ければ、全てのエンジンが同じように燃焼するだろうが、それだと製造コストが跳ね上がってしまう。コストダウンのためには、ある程度の誤差を許容する設計にする必要があるわけだ。
噴射器(インジェクタ)や冷却溝の製造誤差により、燃焼室内壁の温度は変動する。今回の燃焼条件は、バラツキが最も大きい場合を想定していたが、事前の予想を超える温度分布になっていた可能性がある。ただし、起動・停止時の一時的な冷却不足の可能性もあり、高温化の要因の特定はできていない。
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