飲酒検査を半年でクラウド化せよ、モノづくり企業タニタが挑戦したことイノベーションのレシピ(1/2 ページ)

2019年、タニタが最新商品として検査システム「ALBLOクラウドサービス」を開発した。iPadに接続したアルコール検知器とクラウドを連携させることで、検査者のなりすましを防ぐ顔認証機能や、検査結果のデータベースへの送信機能を実現する。「モノづくり企業」であるタニタは、いかにしてクラウド開発を行ったのか。タニタ担当者らに話を聞いた。

» 2020年10月05日 14時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 旅客輸送や物流など安全な運転、運航が求められる業種において、従業員が酒気帯びもしくは酒酔い状態で業務に当たるのはあってはならないことだ。各社ともこれを防ぐ対策を強化している中で、注目が高まっているのがアルコール検知器だ。例えば、航空業界ではパイロットが搭乗する前にアルコール検査を行うなどの対策を徹底するようにしている。

 アルコール検知器の代表的なメーカーの1社がタニタである。1999年に初めてアルコール検知器を発売して以来、継続的に同分野の事業展開を進めてきた。そして2019年、タニタが最新商品として発売した検査システムが「ALBLOクラウドサービス」である。iPadに接続したアルコール検知器とクラウドを連携させることで、検査者のなりすましを防ぐ顔認証機能や、検査結果のデータベースへの送信機能を実現する。

AWSを用いて開発した「ALBLOクラウドサービス」[クリックして拡大]出典:タニタ AWSを用いて開発した「ALBLOクラウドサービス」[クリックして拡大]出典:タニタ

 「モノづくり企業」であるタニタは、いかにしてクラウド開発を行ったのか。タニタ 生産戦略本部 量産設計センター 技術5課 課長の望月計氏と、開発に協力したアクティア 代表取締役の北野幸雄氏に話を聞いた。

有線接続可能な「3世代前」の検知器を採用

 ALBLOクラウドサービスの特徴は、その名前が表すように、アルコール検査機とクラウド基盤を連携させたアルコール検査システムを構築した点にある。既存のアルコール検知器のラインアップである「FC-1000」につなげたiPadでクラウドに接続し、顔認証による検査対象者のなりすまし防止、また、検査結果のデータ送信などを行う。クラウド機能は、人手によるアルコール検査作業や、検査データの収集/管理作業をIT化することで効率化、省人化したい、という航空業界の要望を背景に開発されたものだ。この顔認証機能の実現には「Amazon Rekognition」が用いられている。

 開発は航空企業からの相談を受けて2019年4月頃にスタートした。当初の段階では、アルコール検知器を新規に一から開発することを視野に入れて開発を行う予定だったという。

タニタの望月計氏 タニタの望月計氏

 「もともとタニタのアルコール検知器は、バスやトラックなどを用いた陸上運送を手掛ける企業を主な顧客にしていた。こうした規模の企業は、デバイス買い切り型でのアルコール検知器販売を望むので、当社も、アルコール検知器をクラウド対応させるための開発は特別行っていなかった。しかし、航空企業は世界中に拠点がある大企業だ。検査業務の効率化を適切に果たすには、クラウド化が必要だと判断した。また、航空業界には従来の顧客と異なり独自のアルコール検査基準があるなど特殊な面もあった。このため、まずはオーソドックスな開発手順として、顧客の要望を満たせるクラウド対応型のアルコール検知器を新規に作る必要があると考えていた」(望月氏)

 しかし、新規にデバイスを開発するには、1年から1年間半程度の開発期間が必要になる。一方で顧客側は、クラウドを用いたアルコール検査体制の早急な構築を望んでおり、2019年の秋頃には製品を納入してほしいと要望を出していた。「半年間では新規デバイス開発は困難で、納期に全く間に合わない。そこで、当社がこれまでに開発したアルコール検知器のラインアップからデバイスを選定することにした」(望月氏)。

 デバイス選定時に重視したのが、iPadへの対応だ。航空業界ではiPadが広く使われている。このため利便性を考えると、iPadと通信が可能なタイプのアルコール検知器が望ましい。こうした観点から当初は無線シリアル通信が可能なFC-1200を選定したという。しかし、望月氏は「実際に試してみると、無線接続は思いの他使い勝手が悪く、検査のオペレーション進行に支障が出る恐れがあった。そこで、現行機の3世代前の機種ではあるが、イヤフォンジャックを搭載したFC-1000をあえて採用し、無線ではなく、イヤフォンジャックを利用した有線接続方式に切り替えた」と説明する。

タニタの発売したアルコール検知器のシリーズ[クリックして拡大]出典:タニタ タニタの発売したアルコール検知器のシリーズ[クリックして拡大]出典:タニタ
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