続けて、秘密情報の取り扱いに関する条項についても見ていきましょう。
1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下「秘密情報等」という。)の取扱いについて、次の各号に定める事項を順守するものとする。
(1)情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報等を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理する。
(2)秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。
(3)秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管、管理をする。
(4)漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。
(5)秘密情報の管理について、取扱責任者を定め、書面をもって取扱責任者の氏名及び連絡先を相手方に通知する。
2.甲又は乙は、次項に定める場合を除き、秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。この場合、甲又は乙は、当該第三者との間で本契約書と同等の義務を負わせ、これを順守させる義務を負うものとする。
3.甲又は乙は、法令に基づき秘密情報等の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。
秘密情報の取り扱いにおいては、特に重要な秘密情報と相対的に秘密の重要性が低いものを区別して定義した上で、それぞれに応じた秘密情報の取り扱い方法を設定することも考えられます。
また、第2条には記載されていないものの、情報を知るべき立場の人にのみ伝える、いわゆる「need to know原則」に言及することも重要です。NDAは特定の目的のために契約先の企業に秘密情報を開示しますが、社内共有する情報は目的遂行に必要な範囲に限定するよう義務を課す必要があります。これを怠ると、秘密情報が相手方の会社内で不必要に広まりやすくなります。情報の目的外利用や流出のリスクは、契約先の会社規模が大きいほど高まります。
1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。
2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。
甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。
本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満_年間とする。期間満了後の_ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに_年間継続するものとし、以後も同様とする。
本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。
本契約に関する紛争については_地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
本契約締結の証として、本書を二通作成し、両者署名又は記名捺印の上、各自一通を保有する。
ここで留意すべきは第4条の損害賠償条項です。秘密情報の開示によって何らかの被害が生じても、その被害額を正確に算出することは困難です。事前の防衛策として、条文内に相手方にプレッシャーになる程度の損害賠償額を「損害賠償の予定」として、あらかじめ追加しておくと良いでしょう。
何らかの技術的成果物(ソースコードを伴わないオブジェクトコードやハードウェアなど)を提供する場合、リバースエンジニアリングを禁止する条項を入れると良いでしょう。一例として、先日、特許庁・経済産業省より公開されたモデル契約書では以下のように定めています(秘密保持契約5条)。
(リバースエンジニアリングの禁止)
第5条 受領者は、秘密情報について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報の組成または構造を特定するための分析その他類似の行為を行ってはならない。
契約書作成時の注意点として、「良い契約書」を作るだけでは自社に有利な状況は創出できない、ということがあります。契約書に定められた権利の行使や義務の履行を適切に行わなければなりません。契約の履行過程でさまざまなエビデンスを残しておく必要もあります。また、外部の弁護士に契約書の作成やレビューを依頼する際も丸投げするのではなく、契約書の内容で理解できない箇所は質問して、契約締結後のオペレーションで特に注意すべき点などは弁護士から説明を受けておくことが望ましいでしょう。
また、過去に締結してきた契約書を管理しておく必要もあります。これは自社の法務の体制や法務、知財のリスクチェックが行われる際の重要な資料となります。未上場企業が上場を目指す場合にはIPO時の上場審査で、あるいは、M&A時にはDD(買収監査)で審査される書類となります。これらの審査手続きを外部の弁護士に依頼する際も、あらかじめ契約書を整理しておけば自社の状況を適切に把握してもらえるようになり、リスクの洗い出しや今後の課題発見もしやすくなるでしょう。
そこで、どのように契約管理すべきかが問題となりますが、一から自社で体制を構築するには時間や労力を要します。一案として、法務や契約業務に関するデジタルサービスを利用するという方法が考えられます*5)。
*5)例えば、電子契約などを手掛けるHolmesなど。同社は「契約書という『点』ではなく、契約という『線』での課題解決」というビジョンを掲げ、契約書の作成から締結後の管理までの一連のフローをクラウド基盤で管理するサービスなどを提供している。
今回は他社との取引、アライアンスを開始するにあたって注意すべき点をいくつか検討してきました。次回は、新商品の改良・拡大期における留意点をご紹介します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.