――いつごろから「ランナーの悩みを解決するというコンセプトでスマートシューズの開発を始めたのでしょうか。
菊川裕也氏(以下、菊川氏) 私のモノづくりは、実は靴ではなく「楽器」を作るところから始まりました。
私は音楽が大好きで、学生時代にはバンドをやっていました。そうした背景もあり、大学院生のころからは電磁石で浮き沈みさせる円柱とライトを組み合わせた電子楽器を作っていました。
さらに大学院生時代に、静電容量センサーを組み込んだウイスキーグラスを使って、「飲む」という行為をトリガーに、音を鳴らすだけでなく店内の映像を変える楽器を作る、というプロジェクトに参加しました。この時、どんなものも楽器のインタフェースになり得るのだと知って、ちょうどその頃から「日用品が楽器になればどんなに面白いだろう」と考え始めるようになりましたね。
――そこから、なぜ靴を作り始めたのですか。
菊川氏 人の動きに音や光が組み合わさると面白くなるものって何だろう……と考えていたら、ある時、ふと「靴を楽器化するのは良いアイデアかもしれない」と思い付きました。靴は誰もが身に付けているものだし、普遍性もある。そう考えて、タップダンスをすることで連携したスマホから音が出る靴の試作品を作りました。
その後、起業してDMM.make AKIBAに本社を構えました。2014年10月のことです。ちなみに、初めて開発した光るシューズ「ORPHE ONE」とその後継機「ORPHE TRACK」にも、、走り方などをスマートフォンやPCに送信するIoT(モノのインターネット)機能が搭載されています。いまではIoTという言葉は当たり前に使われていますが、当時はようやく出回り始めた程度。ですから、どちらかといえば珍しいコンセプトのプロダクトだったと思います。
――センサーだけでなく、靴の開発から始めたのですね。これまで手掛けたことのない靴作りへの挑戦は、経営視点から見るとリスクにもなり得るかと思うのですが。
菊川氏 そのような考え方もあるでしょうが、私は「モメンタム(勢い)があったほうが事業は成功する」と考えています。自分ごとになって、仲間がついてきてくれると思うからです。
靴の開発は浅草の靴職人にも協力してもらいました。その結果、動きに応じて光るスマートシューズが生まれ、2015年3月から販売しました。片足にLEDライトを50個埋め込むことで、多様なパターンの光り方を実現することができました。
音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」などアーティストの皆さんとコラボして、とても楽しかったし、話題にもなってそこそこ売れました。でも、ビジネス的に大成功とまでは言えませんでした。
それでもこの経験で、靴には可能性があると感じ、プロダクトとしてもっと突き抜けられないかと思い始めました。アシックスから声をかけていただいたのはそんな時で、共同でスマートシューズの開発をすることになりました。
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