日本郵船らが始める実証事業には大きく2つの要素が含まれている。1つは高出力の舶用燃料電池システムの開発、もう1つは水素供給システムの構築だ。実証事業には日本郵船の他に、東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、ENEOS、日本海事協会が参加する。
日本郵船 グリーンビジネスグループ 第2チームのチーム長を務める川越祥樹氏は、この実証事業の特徴として「燃料電池船における需要と供給、両面からの取り組み」を挙げる。需要サイドとしては船舶で水素と燃料電池を使えるようにする技術を開発し、供給サイドでは舶用燃料として水素を船に供給するシステムを構築する。「この2つの技術の成立が船舶における水素と燃料電池の活用拡大を実現する鍵だ」(川越氏)という。
需要側と供給側、それぞれの技術は複数の段階に分かれる。まずは、燃料として使う水素を製造する段階があり、次いで製造した水素を輸送する。そして、港湾において船舶の燃料電池に使用する水素の供給システムを構築し、燃料電池を使用するシステムを導入した船舶の製造と運航、となる。今回の実証事業では、このステップの中から、港湾において船舶に水素を供給するシステムの構築と、燃料電池を使用するシステムを導入した船舶の製造と運航に取り組む。
川越氏は、この実証事業がもたらす海事業界における効果として、「技術開発に加えて、水素と燃料電池を船舶で使うための法規制や安全性、経済性を含めた、運用面の検討もこの実証事業の成果となる」と述べている。具体的には、「水素社会の実現」「国際連携の強化」「環境負荷の軽減」「地方創生」「海運振興」といった項目につなげたい考えだ。
水素社会の実現については、現在陸上で既に実用化/商業化している水素技術を、海洋分野でも安全安心に使えるようにすることで貢献するとしている。初期段階にある海洋分野での水素活用を普及、拡大していくには国際連携が不可欠となる。そのため、海洋立国として技術開発に先行しておくことは、今後の国際連携と、そのための海洋関連の法整備や国際規格標準化における取り組みをスムーズに進めるためにも重要なポイントになるという。
環境負荷の軽減では、年間500万トンのCO2削減を掲げている。環境省の報告では2018年の調査による日本国内における船舶のCO2排出量が約1000万トンなので、その半分が削減できることになる。川越氏によると、これは日本の内航船舶の8割を占める「総トン数499総トンまでの船舶」(総トンは船舶全体の容積のこと)の全てで燃料電池を導入した場合の試算だ。
地方創生に関しては、港湾を持つ地方自治体における水素活用を促進できる他、現在電動車などで活用が進んでいる災害時の電力供給に水素と燃料電池船舶を加えることも可能になる。海運振興の項目ではデジタルトランスフォーメーションの促進という文言がある。ただ、燃料電池の導入に伴ってリモートメンテナンスシステムを構築して船員の省力化を図るなどの具体的な構想は白紙状態としている。
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