ジェイテクトの製造業マッチングサービス「ファクトリーエージェント」を手掛ける「株式会社ファクトリーエージェント」が、本格的な事業展開の開始を発表するとともに、浜野製作所との業務提携を明らかにした。
ジェイテクトの新規事業である製造業マッチングサービス「ファクトリーエージェント」を手掛ける「株式会社ファクトリーエージェント」は2020年7月21日、オンラインで会見を開き、本格的な事業展開を始めると発表した。また、本格始動に併せて、浜野製作所と業務提携したことを明らかにした。
ファクトリーエージェントは、ジェイテクトが新規事業として2019年3月に発表した、Webサイトを用いる製造業マッチングサービスである。一品一様でカスタマイズ性の強いオーダーメイドの図面加工品を製造できる事業者を探す「発注者」と、町工場などの中小製造業を中心とする高い加工技術を持つ「受注工場」の間を独自のネットワークとプログラムによってマッチングを行う。
発注者が、ファクトリーエージェントのWebサイトに図面データをアップロードした後、クラウド上で図面データの確認と分析、受注工場のパートナー選定と依頼を行う。これを受けた受注工場が図面データから見積書を作成し、その内容を発注者が確認して正式に依頼を出すことによりマッチングが成立する。
ファクトリーエージェント 代表取締役の上出武史氏は「当社サービスの最大のメリットは、発注者、受注工場ともにリスクを低減できる点にある」と強調する。発注者は、ファクトリーエージェントのネットワークの中から最適な調達先を選定することによって調達リスクを回避でき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や自然災害に対するBCP(事業継続計画)の強化にもつなげられる。一方、受注工場にとっては、ファクトリーエージェントの仕組みそのものにリスクが少ないことが大きなメリットになる。ファクトリーエージェントのネットワークへの登録料などは不要であり、成果報酬は発注者とのマッチングが成立した場合にのみ支払う。また、受注工場は、これまでに実績のない発注者からの案件は代金回収が懸念事項になるが、ファクトリーエージェントによる代金回収で、商品納入後の翌月払いを保証している。
ただし、インターネットを活用した製造業のマッチングサービスは2000年ごろから提案されてきたが普及しているとはいい難い状態にある。上出氏は、その最大の理由として「言語化や数値化がしにくく、Web完結が難しい」点を挙げる。「一品一様の図面加工品を製造する上で、どんなデータを使う必要があり、どんなデータがほしいのか。どんなデータを入力して、どんなデータを出力したいのか。これらは、モノづくりに関わる人にしか分からないことであり、プログラムやAI(人工知能)で全てを解決できない。つまり、ITが分かる人だけではダメで、モノづくりが分かる人が必要だ。ファクトリーエージェントであればこれができる」(同氏)という。
まず「モノづくりが分かる」については、ファクトリーエージェントは自動車部品や工作機械、軸受などを手掛けるジェイテクトの子会社であり、高度な加工技術や1000社を超える調達ネットワーク、世界レベルの品質と安全などの基盤がある。
そして「ITが分かる」については、ファクトリーエージェントという独立企業として事業を展開し、新たな組織を構築することで実現している。上出氏は「ファクトリーエージェントの事業に携わる全メンバーの半数以上が外部プロ人材や提携メンバーであるとともに、残りの半数を構成する社員のさらに半数、つまり約25%の人員がIT関連業界からの中途採用になっている」と説明する。この組織によって、スタートアップのスピードと大企業のパワーとアセットを両立しているとする。
また、ファクトリーエージェントは、同社の製造業マッチングサービスを通じて、国内中小製造業を中心とした新たな産業クラスターの構築を目指している。「自動車業界をはじめ、メーカーを頂点とした城下町サプライチェーンの強固さが国内のモノづくりの強みだったが、その強固さ故にサプライヤーである中小製造業が他の業界との垣根を越えた新規の取引ができず、競争力を低下させる負のスパイラルに陥り、休業や廃業、解散に追い込まれている。ファクトリーエージェントは、この垣根を越えて調達ルートをつなげて、実力のある中小製造業を廃業させないようにしたい」(上出氏)としている。
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