こうして目標原価を達成すると「原価企画」から「標準原価管理」に移行するのですが、まだまだ原価の低減を進める必要があります。通常、完成車メーカーと部品メーカー間では、量産として立ち上がった後に半期もしくは1年ごとに価格の改定が行われ、売り上げや生産規模に応じて一定の価格が引き下げられます。すなわち、原価を毎年下げなければ利益がどんどん減っていくのです。
また、完成車メーカーは価格改定以外でコスト削減できないのか検討し、部品メーカーとともに方策を探します。この活動は、基本的にはVE活動と同様ですが、量産開始後はVA(価値分析)活動と呼ばれます。VA活動の実績は次回以降の受注につながるため、部品メーカー向けの窓口となる完成車メーカーの設計や調達の各部署は、懸命に取り組む必要があります。
「標準原価管理」の中で、自社内での改善や、完成車メーカーと部品メーカーでの共同の改善VA活動で具体的にどのような方策を実施していくのか説明していきます。
自社内での改善では、時間内の生産性を上げることに重点が置かれます。代表的な例としては、金型の寿命を向上させるための素材や表面処理の見直し、製造ラインのレイアウト変更により生産に必要な人数を減らす少人化、段替時間の短縮による非稼働時間の低減……こうした小さいカイゼンを積み重ね、日々生産性を向上させ標準原価を低減させていくのです。
トヨタの「カイゼン」に代表される「少ない時間で良いものをより安く」を目指して工場現場からボトムアップで生産性を向上できるのは、日系メーカーの強みです。
また、改善VA活動では完成車メーカーと部品メーカーで協力しあい、現地現物で実際にモノや工程も見ながら採用できる案がないか検討していきます。VAでのコスト低減は基本的に完成車メーカーと部品メーカーで半々のメリットとなるよう割り振られます。例えば△10円のコスト削減が実施できた場合、完成車メーカーで△5円、部品メーカーで△5円となるよう販売価格が調整されます。
VEと同様、改善VA活動も必要最低限の機能をいかに低コストで実施するのかの活動であり、量産が続く限り継続して続いていくことになります。また完成車メーカーと部品メーカーの間だけでなく、ティア1、ティア2以降の部品メーカーでも同様の内容が行われています。完成車メーカーが部品の価格を下げることは「下請けたたき」と捉えられがちですが、こうしたVA活動やカイゼンによる原価低減が部品メーカーの競争力の源泉になっていることは忘れてはいけません。
製造業、特に自動車業界では設備投資などの固定費が高く、基本的に利益率はそれほど高くありません。完成車メーカーでは「より良いクルマをより安く」作るため、部品メーカーでは厳しい完成車メーカーからの要求、販売価格の中で利益を上げるため、原価は常に管理され、低減をしていく必要があります。日本のメーカーの強みである「緻密な原価管理」。ぜひとも知識を深めて活用してください!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.