位置度を考える上で重要な「最大実体公差」の「動的公差線図」産機設計者が解説「公差計算・公差解析」(14)(3/4 ページ)

» 2020年04月02日 10時00分 公開

穴と軸の組み合わせにおける動的公差線図

 では、前回と同様に、穴と軸の組み合わせにおける、動的公差線図を描いてみましょう。穴部品と軸部品をあらためて示します。

図5 最大実体公差方式の指示がある穴部品(上)と軸部品(下) 図5 最大実体公差方式の指示がある穴部品(上)と軸部品(下) [クリックで拡大]

 穴部品、軸部品は、以下のようになります。

(1)最大実体サイズ 穴:12.1[mm]/軸:11.9[mm]
(2)最小実体サイズ 穴:12.2[mm]/軸:11.8[mm]
(3)最大実体実効サイズ 穴:12.0[mm]/軸:12.0[mm](図6参照)

図6 軸の最大実体実効サイズ 図6 軸の最大実体実効サイズ [クリックで拡大]

1.(1)(2)(3)を動的公差線図の横軸に配置します。穴部品も軸部品も位置度公差の値は0.1[mm]となっています(4)。また、穴部品も軸部品も(最大実体公差サイズ)と(最小実体公差サイズ)の差分、すなわちサイズ公差の差分は0.1[mm]です(5)

2.(4)と、この(4)+(5)=0.2[mm]を縦軸に配置します。

3.横軸の最大/最小実体サイズの位置から、縦軸方向にサイズ公差の差分(0.1[mm])を追加した位置の交点と、最大実体実効サイズの位置(位置度公差の値0)を結ぶ直線を引きます。これを穴と軸両方について行います。

図7 穴部品と軸部品の動的公差線図(作図方法) 図7 穴部品と軸部品の動的公差線図(作図方法) [クリックで拡大]

 図7から、斜線部分(引かれた直線の下側)が、最大実体公差方式による適用領域を示していることが分かります。

 前回、動的公差線図の説明は行わず、「軸を穴にはめるには」という説明をモデル図で示しました。始めから設計者が最大実体公差方式による適用領域が分かっているのであればよいのですが、筆者自身、この方式について社内で教えてくれる人が誰もいなかったため、知るよしもありませんでした。

 もし、最大実体公差方式のメリットを感じて、その運用を採用するのであれば、まずは動的公差線図によって公差値の拡大領域を試算し、その効果(利得)を確認した上で、実際の設計に適用すべきでしょう。

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