ロボット技術の展示会「2019国際ロボット展」内で開催された経済産業省主催のテーマセミナー「将来に向けたロボット関連人材育成の方向性について」に、国立高等専門学校機構 教育総括参事 教授の本江哲行氏が登壇。「高専における人財育成」と題して、高専のロボット人材に関連した教育内容について紹介した。
ロボット技術の展示会「2019国際ロボット展(以下、iREX2019)」(2019年12月18日〜21日、東京ビッグサイト)内で開催された経済産業省主催のテーマセミナー「将来に向けたロボット関連人材育成の方向性について」に、国立高等専門学校機構 教育総括参事 教授の本江哲行氏が登壇。「高専における人財育成」と題して、高専のロボット人材に関連した教育内容について紹介した。
国立高等専門学校(高専)では、ロボット教育に力を注いでいる。例えば、高い注目度を誇る全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)は、1988年に初めて開催され、30年以上続けられている人気ロボットコンテストである。高専ロボコンのコンセプトは「自らの頭で考え、自らの手でロボットを作る」ということだ。ロボット開発を通じて、発想することの大切さ、モノづくりの素晴らしさを共有できる環境を作り、実践的な教育を進めている。
高専では、ロボコン以外でも、さまざまな社会実装教育を推進している。イノベーションを実現する技術者の教育を目指しており、PBL(課題解決学習)型教育を中心としている。「実際に課題を発見し、プロトタイプを試作し、ユーザーの評価を得て、改良し導入するという一連のプロセスを体験するというもので、自分で考える、世の中のニーズを読む力が必要になる」と本江氏は語る。
こうした社会課題に対する働きかけを行う取り組みは、全国の高専の中でも特に、東京高専が先行しており学生が当事者として活動している。具体的には、道路ロードコーンの設置と改修を行うロボットや、肢体不自由児に向けた車椅子型ロボットの開発事例などがあるという。また、函館高専では建設現場の除雪作業負担を軽減するロボットなどを製作している。
これらは、学生が授業の一環として社会課題を捉え、その課題をロボットで解決するために取り組んだ成果である。「授業を通じて社会課題に対することで、社会やエンドユーザーと密接した関係性を構築してユーザー目線を持つことや、現場実験の大切さなどを学ぶことができている」と本江氏はその価値について述べている。
また北九州高専では、全国KOSEN超スマート社会情報基盤研究ネットワークの「デジタルものづくりプロジェクト」において、技術開発を行うためのオープンイノベーションモデル、会社、自治体、高専とネットワークを設けて、エンジニアリングチェーンの役割分担をしながら共同研究を行う仕組みを構築している。具体的には、工業製品検品工程における異常検知AIの研究開発に現在取り組んでいるという。その他、注射薬や医療材料における自動認識装置の次世代機開発と事業化にも参画している。
教育システムの面からみると、高専の一番の強みは中学校を卒業した15歳から5年間(専攻科を含むと7年)の一貫した技術者教育を実施できる点にある。高専の数も日本全国を網羅しており、全国で51カ所が設置されている。本科(1〜5年間)の学生数は現在5万4000人で、専攻科(2年間)は3300人が学んでいる。
学科の分野は電気・電子系、情報系といったロボットを直接製作する学科と、化学系、土木建築系などロボットを活用する立場で学習する学科がある。大学と比較すると、大学が研究、解析・解明など理論の体系化に力を注ぐ一方で、高専は基本原理をいかにして活用するかという点に重きが置かれる。「より実践的な価値をどう作り出すかということがポイントだ」(本江氏)。
教育のカリキュラムは、15歳から専門教育が始まり、一般教養も並行して学習できるようになっている(くさび形カリキュラム)。一方で、講義による理論、演習・実験・実習を重点としたスパイラル教育を実施している。例えば「この機械を使えば、どれだけのコストで、どれだけの精度が出せるかという実習を行う」(本江氏)。高専ロボコンなどのコンテストもこの実習の一例となる。
今後については、さらに産業や社会とのかかわりを深めていく方針だ。ロボットによる社会変革推進計画の中で、産(メーカー、システムインテグレーター)と学(大学、高専、工業高等学校)の協調体制構築を進めていく。本江氏は「それぞれの責任を明確にしながら産学の協働教育(社会実装教育)を推進する」と考えを述べている。
具体的には、ステップ1で教員とエンジニアなどの定期的な情報交換(高専の授業見学や企業の工場見学など)を行う。ステップ2では出前授業やインターンシップ、工場見学、シミュレーターなどから、深みと幅のある教育(シミュレーションと実体験)を協働教育で実施する。そして、ステップ3で、社会実践教育の成果を、共同研究開発へとつなげる。「最新のロボティクスを学んだ学生を社会へ送り出し、さまざまな社会課題を解決するという世界を目指している」と本江氏は語る。
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