ロボット革命イニシアティブ協議会は「第4次産業革命下における製造業の人材育成について」をテーマに、RRI“Work4.0”セミナーを開催。日本とドイツの両国での人材育成の状況把握や課題認識などについて意見交換を行った。
ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)は2018年9月7日、東京都内で「第4次産業革命下における製造業の人材育成について」をテーマに、RRI“Work4.0”セミナーを開催した。今回のセミナーでは、RRIのパートナーであるドイツPlatform Industry 4.0(プラットフォームインダストリー4.0)の役員であるJorg Hofmann(ヨルグ・ホフマン)氏(IG Metall第1会長)が「Platform Industry 4.0 Work, education and training」と題して講演を行った他、日本とドイツの両国での人材育成の状況把握や課題認識などについて意見交換を行った。
ホフマン氏は講演でまずインダストリー4.0(Industry 4.0)における人の位置付けの変化について説明する。「インダストリー4.0というテーマが登場した時、そこではサイバーフィジカルシステム(CPS)、IoT、AI、ビッグデータという新しいテクノロジーに関する議論が中心で、人の存在はなかった。しかしその後、変化が起こり2015年のハノーバーメッセ(産業見本市でインダストリー4.0の進捗確認の場)では『デジタル変革の中心は人間だ』ということが大きくうたわれた。この期間にどのようなディスカッションが行われたのか、その議論のプロセスについて説明したい」と、インダストリー4.0を取り巻く環境が人を軸とする方向へ変化する状況を語る。
そして、この間行われた議論から「デジタル化はより良い労働のためにどのような貢献ができるのか」と「その労働を担うのは誰か。また、デジタル化の進展の結果としてどのような労働が登場するのか」というテーマを取り上げた。
今後の労働に関する議論としては2つのシナリオが考えられるという。1つは「労働が失われてしまうのか、または仕事のどの程度の部分が置き換えられるものなのか」ということで「デジタル化が進んだ世界では、労働のアップグレード化、つまりより優れた能力を持つ必要がある」(ホフマン氏)とするものだ。
もう1つは「能力開発が対極化するのか」ということだ。これは「一部の人が非常に優れた能力を身に付ける一方で、特定の能力を持たない層が誕生してしまうということだ」(ホフマン氏)という。キープされる労働力が多数生まれ、フリーランサーとして1人で仕事をする人の数が増えるというシナリオも考えられるとしている。
現在ドイツでは労働の「自動化」というテーマに直面している。その中で、デジタル変革が多数の人々にさらなる能力開発を求めるのか、またその能力の二極化が進むことへの危機感が高まっている。さらに「どのような労働が残るのか」ということも問われており、技術進歩の中で取り残されてしまう一定の層が生まれる点なども懸念されている。
能力開発の問題では「全ての人が、新たな職業を目指すということは現実的ではないと考える。その場合、最悪の場合は職業の未来に展望が持てない人々の比率が高まることもあり得る」とホフマン氏は将来の社会的な課題を指摘する。それに対して「当然、なるべく多くの雇用を確保するということが重要であり、その雇用も能力が求められるような良質な職業でなければならない。働く人々がデジタル化による変革のプロセスの中に組み込まれていなくてはならず、働く者の側にはそれに参画する用意がある」と、ホフマン氏は意見を述べた。
ドイツのインダストリー4.0推進団体であるプラットフォームインダストリー4.0の中には、いくつかのワーキンググループ(WG)がある。そのWGの1つに「労働職業教育・継続教育」がある。そこでは、産業界におけるデジタル化の進化に伴う労働問題に取り組んでいる。また、研究分野でも「労働の未来」に関する研究がさまざまな形で行われているという。さらに「Work(労働)4.0」とした包括的に変革を捉える動きもあり、この3つのプロセスにより、労働組合、学術界、政府がともに課題解決に向けて参加する仕組みが組織されている。
これは、社会に受け入れられる重要な取り組みである。テーマが多岐にわたっていることから議論が袋小路に陥らないようにしたことと、優れた労働を考えるときに、デジタル化が貢献してくれるテクノロジー部分を見落とさないように注意することも必要となる。ホフマン氏は「これらの関係団体や組織が『共に』というところが大事だ。産学官がインダストリー4.0、Work4.0、研究という3つのプロセスに参加し、新たな働き方の在り方を描き、対策や取り組みを明確化することが重要である」と強調している。
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