特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

製造業が「DX」を推進するための3つのステージ、そのポイントとは?製造マネジメント インタビュー(2/3 ページ)

» 2020年02月14日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

日本企業のDXは「まだまだ本質的なものが少ない」

MONOist 日本企業のDXの進捗度をどのように感じていますか。

福本氏 2018年に経済産業省が発行した「DXレポート」により、「DX」や「2025年の崖」が大きな注目を集め、関心は高まってきた。しかし、まだまだ本質的な価値を生み出せている企業は少ない。

 そもそも既存のビジネスをデジタル技術により効率化するのは「DX」ではない。東芝では、これらを切り分けるために、既存のビジネスをデジタル化して効率化する取り組みを「デジタルエボリューション(DE)」、デジタル技術を土台としてビジネスモデルや自社の立ち位置そのものを変革するものを「DX」と位置付けている。「DE」レベルの取り組みでも「DX」と位置付けてしまい、本質的な変革に踏み込めていないケースが目立っている。

photo 「DEとDXを切り分けて取り組む必要がある」と語る福本氏

 例えば、製造業でいえば製品や工場をデジタル技術で高度化するような取り組みは「DE」だと位置付けている。自社内のスマート工場化や、製品から取得した情報を設計などにフィードバックするような取り組みがこれに当たる。一方で「DX」はこれらで得られたデジタル基盤やデータを軸とし、顧客やパートナーなどとエコシステムを構築し、自社の立ち位置を変えながら新たな価値を作り出していくというような取り組みだ。「モノからコトへ」などもよく言われるが、製造業からデータサービス業へと転換するような動きがこれに当たる。

 そういう意味では「DX」は全く新しいビジネスを生み出す取り組みであり、非常に難しくリスクがある。そこで「DE」により既存事業に余力を生み出しながら「DX」を進めるというようなことが必要になる。その際にも現在事業を抱えているメンバーに「DX」をやらせるのは現業のしがらみが生まれるので無理だ。新部門や新会社を作るなど「DX」を主目的とした組織を構築し、新しいステークホルダーを見極めながらビジネスモデルを作り上げていくことが必要だ。

 著書である「デジタルファースト・ソサエティ」では、DXにおける3つのステージを定義している。1つ目は「DE」に当たる自社のサービスを効率化、高度化するステージである。2つ目は、顧客や業界の課題という視点で業界全体を最適化するステージである。業界横断型のビジネス基盤構築やプラットフォーム構築などがこうした動きに当たる。3つ目は、社会インフラや社会課題としての視点で考えるフェーズである。スマートシティーなどSociety 5.0などで描かれるのがこうした取り組みである。

 これらのステージの移行は、「自社レベル」「業界レベル」「社会レベル」と視点が変化する点が重要なポイントで、DXを進める中で自社の取り組みがどのステージに当たるのかを考えながら進めることが必要になる。

オープン&クローズ型のマインドセットに

MONOist 「自社以外」の視点でモノを考えるのが日本企業は苦手であるように感じるのですが、こうした点をどのように変えていくべきだと考えますか。

福本氏 今までは多くの日本企業がクローズ&クローズ型で自社内に閉じてあらゆるビジネスを行うのが当たり前だったが、オープン&クローズ型に変えていくという発想が必須になる。その場合に「できる」か「できないか」の観点だけで考えると日本の多くの企業は優秀なので自前でできてしまう。ただ「そのための時間やリソースは本当に必要なのか」を考えることが必要だ。社内外のリソースを組み合わせることで「時間を買う」というような考え方が重要になるだろう。

 こうした取り組みを前提として考えると、ボトムアップ一辺倒では難しくなる。日本企業は現場が強くボトムアップの力を最大化することで競争力を生み出してきた。しかし「DX」においてはボトムアップだけで、こうした「視点の変化」はできない。例えば「モノからコトへ」といわれるようにサービスビジネス化が進んだ場合、「売り切り型」であれば1億円で売れていた製品が、1年間では1000万円しか入ってこない状況が起こり得る。こうした状況で「1000万円で大丈夫」という判断は経営陣でなければ難しいからだ。

 ライフタイムバリューやプロジェクトベースで考えるなど、売り方だけの問題ではなく文化や評価方法など体制全体を新しい形に最適なように組み替えなければならない。経営陣と現場が一緒に進められなければ成果を生むことは難しいのだ。「DX」ではデジタル技術を中心とした技術論で語られることが多いが、企業のトップが危機感を持って進めるべきビジネス変革だと捉えるべきだ。

MONOist 一方でDXに向けては「PoC(概念実証)疲れ」など実証から先に進まない現象も生まれています。これらを乗り越えるにはどうしたらよいと考えますか。

福本氏 新しい業務プロセスの在り方を見定めるためにPoCは行う必要がある。実現したい世界があり、逆算した形でデジタル技術を当てはめるのかという評価を行うようにすればPoCだけで終わるというのは減らせるはずだ。その際に、小さくてもビジネスプロセス全体の要素を含む形で縮小するという考え方が重要になる。デジタル技術よりもアイデアやエコシステムが正しいのかどうかを検証するということだ。

 確かに実証であるため全てが導入されるわけではないが、「PoC疲れ」などネガティブな話が広がっているのは残念だ。PoCでの典型的な失敗ケースが、他社の成功事例を「模範解答」だと考えてそのまま当てはめてしまうものだ。先述した通り、各社の状況やステージなども異なるのでまずは自社内で将来の世界を描き、それに対応する方向性を定め、これらの縮図としてPoCを行うという順番でなければ、その多くは失敗するだろう。この順番をしっかり考えて取り組んでいくことが重要だ。

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