注目してほしいのは、この自動認識が「予選競技」ではなく、「規格審査」であるということだ。やや分かりにくいが、この違いは非常に大きい。もし自動認識が予選競技なのであれば、課題を達成できなかった場合でも、成功したロボットが少なければ、数合わせのため決勝トーナメントに進出することが可能だったろう。
しかし今回は規格審査として行われたので、成功しなければその段階で失格。勝負の土俵に上がることすら許されない。もし成功したロボットが1台もいなければ、今大会は「優勝者無し」という結果になっただろう。今回は2台が成功したので決勝戦が実施されたものの、1台だったら試合は無く、いきなり優勝となっていたはずだ。
これはかなり厳しい対応だ。しかし、それでも自動認識を規定として盛り込んだのは、このルールによって、競技レベルの向上を促す狙いがあるからだ。これまでのように、強いロボットにPSDセンサーを付けただけのようなロボットは、完全に排除される。画像認識のようなAI技術の実装が不可欠となった。
今回は、2台のロボットが決勝トーナメントに進出したわけだが、Dynamicsは歩行の規定を満たしていなかったので、事実上、自動認識ができて、きちんと歩ける規定を満たしていたのは、プロト2号だけだったといえる。
しかしプロト2号は、バトル自体は弱い。もし自動認識が予選として行われていて、成功しなかったロボットもトーナメントに上がっていたら、勝ち上がるのはかなり難しかった。今回、バトルはたった1試合になってしまったものの、ちゃんと規定を満たしてきたロボットが優勝したのは、見ている側としてはスッキリするし、良かっただろう。
ROBO-ONEを主催する二足歩行ロボット協会 理事長の西村輝一氏は、今回、自動認識を導入したことについて、「自律バトルは相手を認識しなければ戦いにならない。まずはそこをしっかり固めたかった」と、意図を説明する。
筆者は、規格審査を通過するロボットが0台というのも有り得ると見ていたので、2台が通過して試合が成立したのは、結果として良かったと思う。ただ、課題が「難しい」とは言っても、自律競技を長くやってきたロボカップの大学チームなどにとっては、おそらくそれほど難易度が高い課題ではない。難なくクリアしてしまうだろう。
ROBO-ONEはもともと、ホビー色が強い競技会として誕生した。長らく操縦競技として続いてきたこともあって、参加者にはメカに強い人が多い。ロボットの動きは、GUIベースの専用ソフトでポーズをつなげるだけで作れるため、プログラムの知識が無くても問題は無かった。そういうメカ寄りの人には、今回の課題は確かに難しい。
ロボットは、メカ、エレキ、ソフトと、異なる分野の技術が融合したシステムである。その全てを身に付けることはなかなか難しいだろうが、西村氏は「さまざまな技術を全て使いこなすのは難しいにしても、理解して知っておくことは、これからのロボット作りで重要」と指摘、今後も競技を続けていく意向をあらためて示した。
同氏は、自律バトルを盛り上げるための試みとして、新部門の設立も検討しているそうだ。「5kg以下の自作ロボット」というのは、AIが得意なソフト分野の人材にとってハードルが高過ぎる。もっと手軽に参入できるよう、レファレンスの機体を用意して、ソフトの勝負にする。そう、本戦に対するLightのような位置付けだ。
新部門が実現すれば、本戦のロボットビルダーとのマッチングの場としても機能するかもしれない。チームを組んで、新部門で優勝したAIを本戦で優勝した機体に搭載すれば、どんな自律バトルになるだろうか。すごく楽しみなところである。
次回のROBO-ONEは、日本科学未来館で2020年2月に開催予定。今度はどんな結果になるのか、引き続き注目したい。
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