特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

アマゾンがLPWAを独自開発、LoRaWANでもSigfoxでも802.11ahでもない組み込み開発ニュース

アマゾンは、独自のLPWA(低消費電力広帯域)ネットワーク(以下、LPWA)を開発中であることを明らかにした。「Sidewalk」と呼ぶこのLPWAは、ISM帯域である900MHz帯を用いており、km単位の通信距離と、電池駆動のIoTデバイスを年単位で動作させられるという。

» 2019年09月28日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 アマゾン(Amazon.com)は2019年9月25日(現地時間)、米国シアトルの本社で開催した「Amazon Devices Event 2019」において、独自のLPWA(低消費電力広帯域)ネットワーク(以下、LPWA)を開発中であることを明らかにした。「Sidewalk」と呼ぶこのLPWAは、ISM帯域である900MHz帯を用いており、km単位の通信距離と、電池駆動のIoT(モノのインターネット)デバイスを年単位で動作させられるという。2020年内に発売する飼い犬向けのトラッカー「Ring Fetch」に採用する計画。また、Sidewalkのプロトコル仕様を公開し、サードパーティーによる製品開発を促す方針だ。

Sidewalkを採用する初の製品「Ring Fetch」 Sidewalkを採用する初の製品「Ring Fetch」(クリックで拡大) 出典:アマゾン

 同社がSidewalkを開発した背景には、スマートスピーカー「Alexa」の機能をさまざまなデバイスに搭載できる「Alexa Connect Kit」を展開する中で、屋外に通信範囲を広げることへの制約があった。BluetoothもWi-Fiも、屋外で使うには通信範囲が限られており、その一方で、5Gは長距離通信や高い信頼性の確保には最適ではあるものの、複雑で高コストだ。BluetoothとWi-Fi、5Gとの中間に位置し、低コスト、低消費電力、低周波数帯域で、年単位での電池駆動が可能な無線通信技術が必要になると考えた。

 Sidewalkはこれらの要件を満たす通信技術のコンセプトだ。アマゾンは、Sidewalkの通信に対応するアクセスポイントとデバイスを開発した上で、700台のSidewalkデバイスを同社の従業員や友人、家族に配り、少数のアクセスポイントで通信を行ったところ、米国で2番目に大きい都市であるロサンゼルス盆地をカバーできたという。この情報からは、少なくともkm単位の通信距離は確保できているとみられる。

 2020年内に発売するRing Fetchは、Sidewalkを採用する初の製品になる。同製品は、犬が特定の範囲から出たときに通信して飼い主に知らせる機能を備える。

 なお、SidewalkはIoTデバイスのセキュリテイを確保できるように、ソフトウェアのアップデートを可能にするOTA(Over the Air)機能も備えている。

現時点で詳細な仕様は不明

 現時点でSidewalkの詳細な仕様は不明だが、BluetoothでもWi-Fiでも、5G(LTE含む)でもない、低コスト、低消費電力、低周波数帯域の無線通信技術なので、LPWAと考えていいだろう。

無線通信技術におけるLPWAの位置付け 無線通信技術におけるLPWAの位置付け(クリックで拡大) 出典:ソラコム

 LPWAは、ISM帯域(Industry:産業、Science:科学、Medical:医療で利用可能な周波数帯)を用いるものと、セルラー通信を用いるものに分かれる。Sidewalkは、ISM帯域として一般的な900MHz帯を用いるLPWAだ。

 ISM帯域を用いるLPWAとしては、日本国内でもサービスが始まっているSigfoxやLoRaWANが広く知られている。また、Wi-Fiアライアンスも900MHz帯を用いるLPWA版のWi-FiとしてIEEE 802.11ahを提案している。これらの他にも、ソニーが独自に開発した「ELTRES」などもある。

 Sidewalkは独自開発なので、SigfoxやLoRaWAN、IEEE 802.11ahとは異なる通信技術になるだろう。OTAによるアップデートに対応することから、IoTデバイスからのデータ送信だけでなくアクセスポイントからのデータ受信も可能であり、1回の送受信のペイロードサイズもそれなりの容量を確保できるようだ。今後、プロトコル仕様をオープンにする方針を示しており、他のLPWAにないSidewalkならではの機能が判明すれば、採用が一気に拡大する可能性もある。

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