2025年に“日の丸”自動航行船が船出するために必要なこと自動運転技術(5/5 ページ)

» 2019年08月26日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]
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2020年実用化を目指すヤンマーの自動着岸システム

 自動航行船プロジェクトで取り組む開発テーマのうち、「自動離着桟機能」は自動車でいうところの「自動駐車」に相当する。飛行機や自動車と同様に、船でも離岸と着岸の操船は困難を極める。離着岸操船に必要な位置情報は高精細、高精度である必要があり、潮流や風向風力のわずかな変化にも対応する細かい操船が求められる。

 まさに、船長の「経験と勘」がモノをいう領域だ。同型船でも微妙な違いがあるため、潮流や風が船の動きに与える影響が船1隻1隻ごとに異なるだけでなく、舵の効き方や推進器の回転数に対する船速などは、船の燃料や清水、貨物などの状況や船底付着物の状態によって時々刻々と変化する。このように数多くの不確定要素が影響する自動離着桟機能の実証事業では、まず、実証や検証すべき項目を整理し、それに基づいて構築した船舶航行シミュレーションモデルと仮想岸壁を用いて自動離着桟システムの動作を検証確認する。実際に船を使った検証作業は、その次の段階を予定している。

自動離着桟機能の実証事業でも評価手法や安全確保の確立に必要なデータ収集を目的としている(クリックして拡大) 出典:国土交通省
ヤンマーが独自に開発した自動航行船「ロボティックボート」(クリックして拡大)

 しかし、このプロジェクトに先んじて、これまた実施者に指定されていないヤンマーが独自に自動着桟システムを開発している。

 国内プレジャーボート大手である同社は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の「次世代海洋資源調査技術」の一環で自動航行船「ロボティックボート」(重さ1.8t)を開発しており、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が実施する海洋資源調査の洋上中継器(ASV)で活用されている。このロボティックボートは、航海用計器としてDGPS(Differential GPS)や、慣性計測装置、流速計、ソナー(音響多重通信測位装置)を搭載する他、赤外線カメラ1台、120度広角カメラ3台、レーダー、AIS、無線LAN、衛星通信装置、公衆ブロードバンド通信を備える。また、カスタマイズが容易なソフトウェアプラットフォームの採用も特徴になっている。

 このロボティックボートとは別の開発案件となるものの、ヤンマーが開発中の自動操船技術の一部として2019年1月に発表したのが自動着桟システムである。衛星からの位置情報と自社開発の中継器からの補正情報を受信する高精度なRTK-GNSSにより、精密な着岸操船が可能になった。

 この自動着桟システムは、ヤンマーが販売しているプレジャーボートや漁船といった小型船舶にも搭載が可能で、実際に自動操船による着岸テストにも2018年12月に成功している。同社は、2020年に自社プレジャーボートでの実用化を目指しており、将来的には無人ロボット船のコア技術とすべく開発を進めていく予定だという。

操船で最も難しい着岸を自動操船で成功している。右はシステムが認識している位置情報データだ(クリックして拡大) 出典:ヤンマー

【訂正】初出時に「ロボティックボートにはヤンマーが独自に開発した自動着桟システムを導入する。」とありましたが、ロボティックボートと自動着桟システムは別々の開発案件でした。本文は修正済みです

 以上、国が現在進めている自動航行船プロジェクトを中心に、企業が独自に進めている取り組みも交えて、自動操船の要素技術の開発動向を紹介した。なお、近年需要が伸びている潜航艇で実用化が進む自律航行技術は、位置情報の把握などで水上航行船とはまた違うアプローチで実現している。機会があれば、次回はこちらの概要を紹介する予定だ。

(次回へ続く)

→連載『船も「CASE」』バックナンバー

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