しかし、製造業の現場はこのグラフのようにシンプルとは限らず、たくさんの条件が複雑に関係するので、人手で解析するには膨大な工数が必要となってきます。そこで、より効率的、かつ短時間で解決するために使われるのが、機械学習と最適化ソルバーです。
ある工程条件で不良率を低くしたい場合に、機械学習の予測モデルを使うことを考えてみましょう。機械学習は、入力データから予測モデルを生成しますが、最も望ましいアウトプットに対する入力を直接求めることはできません。そこで、ソルバーを使って膨大なインプットを生成してシミュレーションし、数値的に解くことになります。解く方法として最もシンプルな方法がグリッドサーチですが、他にももっと賢いソルバーもあり、最適なアウトプットを得るための望ましいインプット値を逆問題として解いていきます(図3)。
機械学習以前から、最適なインプットを探す問題解決はシンプルな線形モデルなどでおなじみかもしれません。機械学習を使うことで、非線形、多変量などの高度なモデルを構築できるようになり、予測精度が上がっています。
活用事例として、有機材料の配合から強度を予想するモデルを生成し、最適な強度を与える配合を求めるケースや、工場の操業条件から収率を予測するモデルを生成し、収率が最大になる工程条件を求めるケースなどがあります。
逆問題最適化ソルバーで得られた最適な入力データを活用する時に忘れてはならないのは、あくまでこれは機械学習のモデル上の解であり、実務上の解になるとは限らないことです。
分かりやすい例として、コンクリートの強度を最高にするための最適な配合データ、工程条件が図4のようになったとします。
セメント、添加剤、水などを混ぜて生成したコンクリートは、乾いていくほどに強度を増します。この強度は時間がたてばたつほど固くなるため、ソルバーの最適解では、混ぜてから547日置いておくという結果になりました。工事日程を1年半遅らせるわけにはいきませんから、現実的な解ではありませんね。そもそも、材齢基準が28日と決まっているので、実務的にも意味がありません。
これは分かりやすい例ですが、ソルバーの解はモデルにおける解なので、事業知識を持つ人間が考えないと気付かない穴が存在することがあります。例えば、添加剤のコスト、材料同士の溶解度など、経済的、物理的、化学的に実現可能なのかは、人間が結果を見て判断しなければなりません。モデル生成のときに、これらの制約条件を含めることもできますが複雑になり過ぎるので、実務の知識がある人間が計算結果を検証するというアプローチの方がたいていの場合で効率的でしょう。
ソルバーの解はあたかもズバリ数値で返ってくるのであたかも正解のように見えてしまいますが、そのまま受け入れてはうまくいかない場合があります。課題に対する解ではなく、あくまでインサイトとして捉え、それをヒントにして人間が気付きや知見を得られることに価値があります。
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