GEが金属3Dプリンタの活用を開始したのは2009年頃だったという。ジェットエンジンであるLEAPエンジンの燃料ノズルにおいて、まずは開発レベルで金属3Dプリンタを採用して、要求仕様を満たすことができた。
ただ、そこから量産レベルに持っていくまでには時間がかかった。従来工法で製造した部品と同レベルのパフォーマンスを発揮できる部品をなかなか製造することができなかった。そこで、1年間かけて検証を行ったという。さらに、金属3Dプリンティング技術のパイオニアのモリステクノロジーを買収し、技術の確立を進めた。
この段階でGEはさらに積層造形技術への投資を行い、金属3Dプリンタにより製造したLEAPエンジンの燃料ノズルのFAA(Federal Aviation Administration、米国連邦航空局)認証取得に取り組み、2015年に取得することに成功した。そして、2016年から量産を開始している。同ノズルの認証取得、量産化の成功は同社にとって大きな自信となったという。その後、2016年に電子ビーム式のアーカム、レーザー式のコンセプトレーザーを立て続けに買収し、GEはメーカーとして金属3Dプリンタに本格参入した。
積層造形技術で量産しているLEAPジェットエンジン燃料ノズルの特徴としては、従来の工法と比べて耐久性が5倍に向上、重量は25%ダウンするなどの成果が出ているという。2018年10月2日には米国のアラバマにある工場で量産出荷として累計3万台を達成した。「『粉末で作っているのに強度は大丈夫か』などの意見もあるが、燃料ノズルは厳密なFAA認証を受けて実際に飛行機が飛んでいる。その事実が全てを証明している」(パン氏)。
積層造形の価値としてパン氏が訴えるのが「パーツの統合」である。従来は一体成形ができなかったために分かれていた部品を、積層造形技術を使えば一体化して製造できる。「今までのエンジンが300の部品に分かれ、別々に作ってきたのは、そうしないと製造ができなかったからだ。それを一体成形できる技術が生まれたことで従来工法にメスを入れることができる。実際に、a-CT7シャフトエンジンのアディティブ設計の事例では、900の部品を16点に集約できた」とパン氏は述べる。
航空機エンジンのミッドフレーム部品をサプライチェーンの観点からみると、従来の製造方式では300部品の設計に60エンジニアが関わり、40のデータシステムが発生していた。さらに量産では50以上の製造機器や施設が必要で、保守やアフターサービス向けでは5つのリペア用施設を用意していた。一方、積層造形方式では、部品を集約して一体化できることから1つのデジタルデザインを6〜8人のエンジニアでカバーできる。製造機器や施設も1カ所で十分となり、データも1つのデータレイクで集約。リペア用部品の倉庫も1カ所に集約できたという。
積層造形で量産準備を進めているGEのターボプロペラエンジンでこの効果をみると、855だった部品点数は12に大きく削減できた。パーツ点数が大きく減ったことで5%軽量化が図られ、燃費も20%向上している。さらに、開発期間も12カ月から6カ月に短縮できている。このターボプロペラエンジンはテクストロンのセスナ・デナーリ機に搭載予定で、受注を開始している。
この他、B777X用のターボファンエンジンGE9Xの部品製造にも用いられている。「今では積層造形技術は使うか、使わないかの問題ではなくなっている。どこに、いかに早く使うかという段階になっている」とパン氏は訴えている。
GEでは積層造形を「箱に入った小さな鋳造工場」と位置付けている。「鋳造工場としたのは鋳型が無いと形ができないということで、誰かが鋳型を設計し、鋳型に注湯して鋳造を行い、形成後に後加工する必要がある。金属3Dプリンタも同様に、データを入れるだけで最終製品ができるのではなく、鋳造と同じ前後の工程が必須となる。こう考えることにより金属3Dプリンタは、夢の装置ではなく、現実の製造装置に変わったと考えている」とパン氏はマインドセットの変化について語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.