産業用IoT(IIoT)の活用が広がりを見せているが、日本の産業界ではそれほどうまく生かしきれていない企業も多い。IIoT活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。本稿ではIIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介する。第3回では、個別のIIoTツールを組み合わせるのではなく、IIoT統合ソフトウェアが実現する価値について説明する。
IIoT(産業用IoT)活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。IIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介する本連載だが、第3回では、個別のIIoTツールを組み合わせるのではなく、IIoT統合ソフトウェアが実現する価値について説明する。
IIoTに国内で先進的に取り組んでいる企業の実態を見ていると、要所要所に異なる分野の専用ツールを採用し、それらを統合して最終目標を達成しようとするケースが見られる。ただ、こうした場合、本当に必要とされる部分、いわば「かゆいところ」に手が届かずに苦しんでいる印象を受ける。
例えば「収集したデータを解析するならBIツール(Business Intelligence)だろう」という発想であったり、「タブレット表示だったら、HTML5をベースとしたHMIの専業メーカーだろう」といった発想だったりで、こうした個々のシステムをベースに検討を進めるケースである。もちろん、それらは要所要所においては最高性能を持っているかもしれないが、IIoTを実現するには無駄に高性能であったり、最終的なスループット向上などに貢献しなかったりするケースが多く「導入したものの使いこなしていない」という状態をよく見かける。
IIoTはさまざまなシステムの集合で価値を実現するため、複数のシステムを統合したソリューションという形になって初めて価値を生む。その価値をどれだけ効率的に生み出すのかという観点で考えた場合、個別のソリューションを組み合わせるよりも、IIoTソフトウェアプラットフォームの特徴である統合ソフトウェアで最初からトータルの枠組みを決めてしまった方が良い場合も存在する。
前提として、IIoTは膨大なサイズのアプリケーションであり、膨大なデータに対して、収集、演算、表示、解析、検索といった、負荷の高い処理が多く求められる。つまり、処理速度は非常に重要なキーワードであり、複数のツールが混在するということは、その度にツール間でのインタフェースが発生するため、演算時間のオーバーヘッドが発生する。ツールに階層を持たせると、演算時間が加算されるのである。
統合ソフトウェアでは、必要な機能が網羅的に提供され、それらが密接に統合されているため、総合的に見た場合の性能は結果として高くなる(余分なオーバーヘッド無し)。そのため、現場に浸透する(IIoTに特化した機能群のため複雑すぎない)といったケースもよく見られる。今回はこれらの点を、IIoTソフトウェアプラットフォームの1つであるzenonの例を用いて詳しく説明する。
IIoTを実現するには、さまざまなデバイス(PLC、DCS、センサーなど)から、さまざまなデータ(製造パラメータ、製造データ、アラームなど)を集めることになる。それらは各デバイス独自のタイムスタンプと共に吸い上げ、全体のデータを時間軸上で整列させることが求められる。さらには、そのデータを高速にデータベースに保存しながら、必要であれば瞬時に複雑な演算をして異常状態を検知し、アラームなどを発行しなければならない。地味に見えるこの部分には、非常に多くのノウハウが求められるのである。
個別のシステムの組み合わせであれば、これらのデータの吸い上げて標準化するのに、毎回個々で調整が必要になる。統合ソフトウェアであれば、ある程度はこれらの調整部分などを吸収し簡略化できるという点が特徴だ。
例えば、zenonの場合は、各TAG(データ)情報が4つの要素から構成(構造体化)されている。「外部タイムスタンプ」「内部タイムスタンプ」「データ」「フラグ」である。このようなデータ構造を持っていない場合は、それぞれの関係性が無い状態でデータベースにデータが格納されるため、それぞれを関連付ける作業が必要になる。IIoTでは単なるデータではなく、時系列データが重要となるため、時系列データの高速なデータベースへの格納、検索にはこういった仕掛けが必要なのである。
データ検索での例も紹介する。zenonの場合、膨大に蓄えられた時系列データを分散させて一定量のデータベースにアーカイブし、それらのアーカイブを特定のルールで関係性を持って管理する手法を取る。アーカイブされたデータベースから「特定の製造データ(温度など)を、特定期間(アラーム発生時から前後1時間など)だけ表示したい」といった要求があると、複数のアーカイブデータから特定の時系列情報が含まれているものだけをメモリに展開し、必要とされるデータを高速に検索、取得する。
生データから1分間、1時間、1日などの粒度でアーカイブデータを自動生成することで、用途に合わせて最適な粒度のデータから検索することを可能とする。これも高速性に寄与している。世の中にはさまざまな優秀なデータベースが存在するが、IIoTシステムでは、データを蓄積するだけでなく、利用することも視野に入れて設計されたシステムが必要である。この利用という面では、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)に内蔵されたデータベースが重要な役割を果たす。
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