残された部品やテレメトリーデータから、同社が結論付けた原因は以下のようなものだ。地上で再現実験を行ったところ、同様の現象が再現できたことから、かなり確度は高いと考えられる。
ホットガスジェットのために、2号機では新たにガスジェネレータを開発して搭載したが、これが設定範囲外で動作。発生したガスの温度が想定を大幅に上回ったことで配管が溶けてしまい、漏れた高温ガスがバルブ駆動用のエアチューブを焼き切った。これでバルブが閉じ、メインエンジンへの燃料の供給が絶たれてしまった。
燃焼ガスが高温になり過ぎないよう、ガスジェネレータでは酸燃比(酸化剤/燃料の比率)を一定以下に抑えるはずだった。しかし配管の形態に問題があり、燃料側の流量が減少した結果、酸燃比が上昇。またインジェクタ(噴射器)には、酸燃比が上がるとさらに燃料が流れにくくなる特性があったことも、この調査では明らかになっている。
長くなるのでこれ以上の詳細には触れないが、同社からは調査報告書が公開されているので、興味がある人はそちらを読んで欲しい※2、3)。
※2)観測ロケット「MOMO」2号機打上げ実験報告書(第1報)
※3)観測ロケット「MOMO」2号機打上げ実験報告書(第2報)
3号機では、インジェクタの設計を変更。配管も、2号機ではメインエンジンとガスジェネレータに途中で分岐させていたが、3号機ではタンクからそれぞれに直接出す形態にした。これで、酸燃比の変動を生じさせた原因を取り除いた。
そして2019年5月4日に打ち上げを実施。ロール制御は完璧に動作、姿勢制御スラスターは最大45度まで噴射角度を変えることができるようになっていたが、今回は大体10度以下に抑えられており、マージンが十分ある状態だったという。機体の強度も問題なく、今回は無事にMax Qを乗り越えることができた。
ロケットはほぼ計画通りに飛行し、到達した高度は113.4km。わずか515秒(8分35秒)の飛行とはいえ、日本の宇宙開発にとって、民間初の宇宙到達という、大きなマイルストーンとなった。
筆者は3回の打ち上げを全て現地で見ていたのだが、同社は今回、今までにないほど自信を持って打ち上げに臨んでいたように感じた。それはおそらく、事前にたくさんの試験やリハーサルを行ってきたことが大きいだろう。特に今回は、初めてCFT(Captive Firing Test)試験まで実施、実フライトと同じ120秒間の燃焼に成功していた。
CFTは、実機相当の機体を使って行う燃焼試験だ。実際に飛ばすわけではないので、機体強度やロール制御の確認はできないものの、ロケットのキモである推進系に問題があれば、見つけられる可能性が高い。CFTの機体には追加でセンサーも搭載できるので、実フライトより詳細なデータを得ることもできる。
おそらく2号機でも、もし今回と同様のCFT試験を行っていれば、問題を見つけられた可能性が高い。ではなぜ、これまではやってこなかったのかという話になるが、問題は、試験に打ち上げとほとんど変わらないほどのコストがかかるということだ。コストが同じくらいなら、打ち上げで実証しようという考え方も当然ながらあり得る。
しかし打ち上げには、関係各所との調整も必要で、事前準備に時間がかかる。既に初号機の失敗からは2年近くがたっており、ライバルとの競争を考えると、これ以上計画を遅れさせたくないというのが同社の本音だ。たとえコストがかかっても、万全の試験を行い、3号機は確実に成功させる。そのためのCFTだったのだろう。
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