ほほ笑みの国で進むデジタル変革の波、タイランド4.0における日系製造業の役割モノづくり最前線レポート(2/3 ページ)

» 2019年06月05日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

“大いなる不動産業”に徹するタイの強さ

 それでは、これらの「タイランド4.0」は日本企業にどういう影響を与えるのだろうか。

 例えば、中国で同様に産業振興政策として進められている「中国製造2025」では、中国が製造技術でも世界1位になることを目指すことが示されており、外資系企業の支援も受けるものの、自国企業の強化を重視する姿勢を示している。一方で、タイの「タイランド4.0」においては、三又氏は「特に外資系企業にフレンドリーな政策というのは変わらないだろう」という見方を示す。

 「タイは以前から長く外資フレンドリーのところがあった。個人的な見解だが、タイには“大いなる不動産業”を志向しているように見ている。産業によっても異なるのは事実だが、自分たちで新しい産業を一から立ち上げるような取り組みを進めるというよりも、そこに外資系企業呼び込んで、タイそのものの発展につなげていく発想が強いと感じている」と三又氏は語る。

 さらに三又氏は文化的な背景などについても語る。「タイは平地がほとんどで肥沃な土地であるため、さまざまな作物ができる。さらに温暖な気候もあり、必死に働かなくても生きていける恵まれた環境にある。こうした状況からこの恵まれたタイの環境を徹底的に生かしていくという発想があるように感じている」と三又氏は語っている。

 こうした外資優遇策については1970年代からスタートしており、この流れはタイランド4.0での取り組みでも踏襲される見込みである。これらの流れを受けて、日本企業も2014年には約4567社だった進出企業が、2017年には5444社以上となるなど、タイへの進出は広がりを見せている。製造業も、2014年には2147社だったのが、2017年には2346社と増加を続けている状況である。

「タイランド4.0」と日本の企業の関係性

 「タイランド4.0」では10分野の重点強化領域があるということを示したが、その中でも従来の産業の延長線上での強化を行う「次世代自動車」「スマートエレクトロニクス」「医療、健康ツーリズム」「農業、バイオテクノロジー」「未来食品」の5つの従来強化型領域と、タイとして新産業として取り組む「ロボット産業」「航空、ロジスティクス」「バイオ燃料とバイオ化学」「デジタル産業」「医療ハブとなる産業」の5つの新規領域に分けられている。

 従来強化領域でも特に「自動車産業」や「スマートエレクトロニクス」などの産業において、日本の製造業への期待が大きいが、「タイランド4.0」において新たにタイから日本の産業で期待されているのは、5つの新規産業領域についてである。

 三又氏は「特に日本企業の進出が求められているのはロボット産業、航空機産業、医療産業である。また、デジタル産業についてもタイには大きなプラットフォーマーの進出はなく、今後産業の大きな変化に対して重要なポイントとなるデジタル化を進めようとしても難しい状況が生まれている。そういう意味で日本からの進出に期待する声も大きい」と述べている。

 デジタル産業という面で、1つポイントだとするのが、日立製作所が新たにチョンブリ県にあるアマタシティ・チョンブリ工業団地内に設立した「Lumada Center Southeast Asia」だとする。三又氏は「IoTに関する大きな拠点の設立は初めてのことであり、タイランド4.0で方針として挙げるデジタル産業に向けた拠点をいち早く設立したという意味では、タイ政府からの期待も高い」と語る。

 ただ、デジタル化を進める中では、IT人材の確保が大きな課題になるという見方を示す。「デジタル化を進める中では、さまざまな規模のIT導入が必要になるが、タイを含むASEANでは、十分なIT化も行われていないケースも多く、これらをシステム導入するシステムインテグレーターなどの数も不足している。これらの教育や支援などが、産業のデジタル化を進めるのに必要になる」と三又氏は今後の課題について述べている。

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