機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第3回のテーマは「幾何公差の“目的”とは何か?」だ。
前回は、JIS規格(日本工業規格)の側面から「幾何公差とは何か?」について解説しました。今回はもう一歩掘り下げて「幾何公差の“目的”とは何か?」をテーマに解説を進めたいと思います。
設計の成果物である2次元図面や3次元図面には、「正しい形を伝える」という目的があります。前回、「形体」と「サイズ形体」について解説しましたが、サイズだけで示すものにはどうしても“曖昧さ”が残ってしまいます。すなわち、サイズ形体(大きさ寸法や角度寸法によって定義される形体)のみでモノの形(ありさま)を示した場合、その図面には“曖昧さ”が含まれてしまうということです。
では、この図面を用いて加工を施す場合はどうなるでしょうか。残念ながら、図面に示されたサイズ形体が“理論的に正しい形”であったとしても、加工工程で「バラツキ」が生じてしまいます。
バラツキの話題が出てきたので、ここで「バラツキの要因」について振り返ってみたいと思います。
バラツキの要因として「4M」があります(図2)。設計者=作業者とすると、“曖昧さ”を残す設計も“バラツキ”を生じさせている要因といえますが、加工工程ではバラツキの要因となる4Mが全て含まれます。
当然のことながら、このバラツキを管理するために「サイズ形体を決める寸法に対する“許容値”」、すなわち「サイズ公差」が設計者によって設定されますが、これだけでは“理論的に正しい形”を加工することはできません。さらに、測定工程でも“理論的に正しい形”をサイズ公差だけから測定することは不可能です。
なぜ、サイズ公差だけでは“曖昧”なのでしょうか? まずは測定方法について考えてみましょう。
長さを測定する際に使用するツールといえば
などがあります。
その精度や測定範囲は“まちまち”ですが、共通点もあります。これらはいずれも対象物上の2点の距離や角度、対象物を置いた基準面からの2点の距離を測定しているにすぎず、必ずしも“正しい形体”を捉えているとはいえません。
続いて、JIS規格を参考に「寸法とは何か?」について、その定義を確認してみましょう。
このように寸法(サイズ)に関しては、測定者視点でいえば、測定機器を使えば簡単に求めることができます。また、設計者視点でも、設計者がサイズを設定する際、強度上必要な寸法(例えば、厚さ○○mm)として最適なサイズを設定することは難しいわけではありません。
では、次のような例はどうでしょうか? 板厚20[mm]、許容値±0.2[mm]で、部品機能を満足させるものがあったとして、併せて図3のような3次元図面が設計者から示されたとします。
この形体を基に、加工担当者が部品の加工を行い、ノギスを使用して2点間を測定しました。その結果、板厚20[mm]、許容値±0.2[mm]にしっかりと収まっていることが分かりました。
一見、何ら問題ないように思えますが、設計者が意図していたものと、加工した実物とでは大きな違いがあったのです。
実は、設計者が設計意図として、
だと考えていたらどうでしょうか。
ですが、実際に設計者が作成した3次元図面を見てみると、そこには“曖昧さ”が残っており、「平面のレベルを示すもの」「平行のレベルを示すもの」が欠落しています……。これでは加工担当者が“正しい形体”を捉えることはできません。
もう1つ、このような円柱の例も紹介しておきましょう。少々大げさに思われるかもしれませんが、“曖昧さ”があるとこのようなことも起こり得ます。
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