―― ローランドといえば電子楽器メーカーとして世界的に有名な会社ですが、そもそも最初に映像機器を手掛けるようになったのは、どういうきっかけがあったんでしょう。
志水 最初の映像関連製品としては、1994年にPCベースの「ビデオくん編集スタジオ」というのを出しました。スタンドアロンのハードウェアとしては、いわゆる「DJ」をやる人へ向けてオーディオミキサーだとかそういう製品を作っていたんですけど、映像を扱う「VJ」というジャンルがだんだん盛り上がってきたんですね。1996年頃にそっちの方へ何か製品出せないかなっていうのが、最初ですね。
―― やっぱり楽器メーカーだけに、音楽を基軸に映像へ、という流れなんですね。VJ向けの製品というのは、当時としても珍しかったと思います。
志水 そうですね。僕たちも「流行っているけれど、それで果たしてごはんを食べられるのか」、そういうところは全然分からない中でまずは製品出してみたということだったんです。そこで最初にメジャーになった製品が、4チャンネルミキサーの「V-4」という製品でした。
じゃあ実際どういう人がV-4を買ってるんだろうというのをインタビューしてみると、4割ぐらいの人はVJのような映像演出をしている人が買ってくれていました。しかし残りの6割ぐらいが業務用のツールとして買ってくれているというのを、その時初めて気が付きました。
―― 業務用というと、具体的にはどういう業務だったんでしょうか。
志水 当時こんな使い方してるんだと思ったのは、取材の収録をする時に、移動録画セットみたいなのをガラガラと持ってきて、そこにV-4がポンって乗っていて、マルチカメラをリアルタイムに収録するとか。コンパクトな収録や編集セットの中に組み込まれているケースが結構多いなと思いました。その他、映画の合成など、現場で仮に効果を見たい、クロマキーで仮に抜いてみて演者さんに見せたり監督さんに見せたり、という風に使われていたようです。
―― 確かに合成の際の芝居って、タイミング合わせや目線の位置なんかは、合成してみないと分からないですからね。
笠井 後は、単純に10万円ぐらいで合成までできるものが当時なかったんですよね。VJ専用で売ってましたけれども、一応合成ができて安いので、どんどん業務用に使われていったと。
志水 最初の頃は販路が楽器店しかありませんでしたから、そこにいきなりビデオと言っても売り先がなかったんで、まずはVJという切り口なら売りやすいだろうというところもありましたね。
―― そこから一連のローランドの映像製品事業が始まったと。VJ用から業務用に転換していったのは早かったんでしょうか。
志水 真正面からの業務用の製品としては、2003年に「LVS-400」というスイッチャーを出したんですよね。中身はほぼV-4なんですけれども、コネクターはRCAではなく業務用のBNCコネクターをつけたりして。シンプルにAB間を切り替えるようなものを、ターゲットを変えて形も変えて出したというのが始まりですかね。
笠井 いわゆる街のPA(Public Address)屋さんも、映像の方に仕事の幅を増やしたいという流れもありました。ローランドは製品もよく知ってるしというところで使ってもらっていました。これはV-4が出た時から今に至るまでずっとそうですね。
―― 面白いところでは、ローランドの映像機器は、米国では教会向けに結構売れてるんですよね。あれはどういった経緯で導入されていったんでしょう。
志水 あれは本当にたまたま米国のスタッフがキリスト教信者で、地元の教会に入っていると。そこでリアルにマーケティングして、V-4みたいな製品ならウケるだろうということで拡販していったということもあってですね。僕らが教会マーケット見つけたというよりは、セールスの人達の知り合いだとか、自分がボランティアでやってるとか、そういったところにたまたまニーズがあったので売れたと。
辰井 後は、オペレーターがボランティアベースなので、プロのオペレーションを想定しなかったというところもありますね。当時はスイッチャーの一般的なセオリーとは違った作りをしてましたので、分かりやすかったんだと思います。
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