2つ目の特徴は、日系企業の中途求人件数が増加したこと。同社のデータによると、自動車業界全体の求人件数のうち、日系企業の割合は2014年には5割程度だったが、2018年度は7割を超えたという。求人の全体母数も増加しているため、日系企業の求人件数は2014年に比べると3.6倍にまで拡大していることになる。これまで新卒を中心に採用してきた自動車業界だが、企業側の考えも変化しているようだ。
その主たる理由は2つ。1つは、グローバルではまだまだ伸びしろがあり、同時に自動運転や電気自動車等の技術の変化もあり、絶対数として技術者が足りなくなっていること。もう一つは、そもそも高専卒、大卒の理系エンジニアが不足しているうえ、製造業のメーカー以外にもIT企業やコンサルティング会社など選択肢も増え、新卒の予定数を確保することが難しくなっていることだ。「次世代リーダー、管理職候補として即戦力となる人材はもちろん欲しい。しかし、新卒を十分に確保できない企業では、若い人、将来のポテンシャルがある人材も、新卒に近い感覚で補充したい。現在の中途採用はこの両方が混在している」(関寺氏)。
完成車メーカーや大手のサプライヤーのように知名度の高い企業はともかく、例えば機械系のように、自動車が変化していくなかで中心となりにくい分野の企業は、特に新卒採用で苦労している。特に、ソフトウェアエンジニアはどの企業も必要としており、競争も激しい。しかしこの状況を求職者側から見ると、例えば機械系企業が募集しているソフトウェアエンジニアならば、活躍のフィールドは広いとも考えられる。次の方向性を考えている企業が新たな製品のために必要としているならば、その企業において重要な役割を担うこともできるのではないだろうか。
3つ目は自動車関連の新会社設立の影響を受けたことである。自動運転技術と電気自動車という大きな2つの技術をスピーディーに推進するために、完成車メーカーと系列のサプライヤだけではなく、これまで資本関係のなかったサプライヤと資本提携したり、違う業界の企業と会社を作ったりといった事例が増えてきている。
新たな会社ができれば、当然その企業の採用ニーズは高い。しかし、例えば完成車メーカーとモーターのサプライヤーがモーター開発のための共同出資会社を作ったからといって、完成車メーカー側にモーターの技術者が必要ないということではない。車に搭載するにはモーターの目利きが必要だし、新たな開発においても同レベルで会話しなければならず、むしろ完成車側でも増強が必要なのだ。結果的に、新会社と既存の企業の両方で採用が増加してきたということになる。
新会社は社名の知名度も低いため、採用が難しい。「しかし、これから間違いなく伸びていくプロダクトに関わることができ、かつ技術的なバックボーン、福利厚生や給与も設立元の企業の水準を踏襲していることがほとんど。知名度は低くても、中身が充実している新会社は多い」(関寺氏)。求職者にとっては、注目したい選択肢の一つといえそうだ。
2018年度を振り返って「一般に安定しているといわれている企業でも、20歳代、30歳代を中心に人材の流動性が高まっている。大手メーカーからの転職、また異業界から自動車業界への転職で成功する事例を目にすることが多くなったことは影響を与えていると思う。特に、異業界からの求職者はあきらかに増え、自動車業界の中で人が流動するという状況はこの1〜2年で急激に薄れてきたと感じている」と関寺氏。米中の貿易摩擦、欧州の景気動向、中国も製造業の状況など、2019年は先が見えにくい要素があるが、自動車業界の転職市場はどのようになるのか。次回は今年度(2019年度)を予測したい。
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