関東経済産業局は、関東圏の中小製造業とスタートアップによるマッチング事業プロジェクトの成果発表イベントを実施。2組のマッチング事例発表の他、中小製造業3社とスタートアップ3社によるパネルディスカッションも開催され、連携のメリットなどが語られた。
生産性の向上や人材不足への対策として、日本の製造業の基盤を支える中堅企業や中小企業においてもAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)への関心度は高い。しかし、中小企業の予算規模でも委託できるパートナー企業が見つからないというマッチングの問題や、そもそも中小企業側がどのように新しい技術を取り込めるかが分からないといった問題があり、実際にAIやIoTを導入できる企業は依然として限定的だ。
そこで、経済産業省の地方ブロック機関である関東経済産業局は、AIやIoTの分野で優れた技術力を持つスタートアップと中堅企業、中小企業をマッチングすることで、生産性の向上や新しい事業の創出を支援する事業を2018年6月に開始している。2019年3月6日に東京都内で、同事業の成果発表会が行われた。
工場向けのクリーンルームや防塵(じん)マスク、防毒マスクを開発、製造する興研は売上高約83億円の中小企業である。同社とマッチングしたロビットは、AIを活用した外観検査の自動化ソリューションを提供するだ。発表会では、興研が製造する防塵マスクにロビットの外観検査ソリューションを適用した事例が報告された。
興研が製造する防塵マスクは、フィルター部分の主原料に羊毛を使っている。従来の検査では、汚れのある繊維の混入やけば立ちがないかを確認しているが、これらの不良はバリエーションが多い。実際には、繊維の色の違いが濃いものや面積が広いものを基準に不良品と判別する検査を行っており、OKとNGの境目を熟知したベテランの社員が対応していた。これを自動化することで検査精度のばらつきを少なくし、急な増産にも対応できる体制を構築したいと考え、関東経済産業局のプロジェクトに応募したという。
一方のロビットは、AIの開発や自動車用トランスミッションの設計、大規模なWebサービスを開発していたエンジニアを中心に創業したスタートアップで、専門分野が異なることを生かしたソリューションを提供している。
今回のプロジェクトでは、ロビットが提供するAIを活用した外観検査自動化ソリューション「TESRAY」を用いて、興研の防塵マスクに適応できるかを検証した。
マスクは材料に羊毛を使っているため、表面の模様が一つ一つ微妙に異なるという。そのため、OKサンプルとNGサンプルの判別に加えて、ある程度の異常を許容する概念をAIに学習させた。こうすることで従来の人間による検査同様に、ある程度の範囲の異常も正常とみなし、異常の程度を正しく理解させることができるかを検証した。
実験の結果、365個のサンプル検査のうち、明らかなOKとNGは100%判別することに成功。曖昧なサンプルについては98.6%の精度で判別できた。
「曖昧品の中でも異常の度合いを細かく分別できるので、人の感性に頼らずに高精度な判定ができ、人間同様の判定ができる」(ロビット)として、今後は実際の製造ラインで稼働させるべく、必要な装置の設計、製造やAIのさらなる最適化、ライン全体とのつなぎ込みを準備中だという。
ロビットとのプロジェクトについて、興研 副社長の堀口展也氏は「AIやIoTは製造業から離れたところにあるという印象があり、製造ラインの話をしても理解を得られるのに時間を要すると思っていた。しかしロビットは、自社でマシニングセンターを保有するなど製造業と近い位置にいる企業で、自社やこれまで取引のあった協力会社では成し得ないスピードで実現できたことに驚いている」とプロジェクトの成果を高く評価した。
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