デジタル技術による変革が進む中、製造業はどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けながら、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかを取り上げる。第3回はなぜ製造業において知見の有効活用が行われてこなかったのかについて解説する。
デジタル技術による変革が進む中、製造業はどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けつつ、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかについて取り上げる。
第2回では、シェアリングエコノミーの対し既存の製造業の工程のどこに問題点があるのかについて検証した。第3回では、なぜ製造業において知見の有効活用が行われてこなかったのか、という点を解説していく。
製造業において、開発スピードの品質獲得のためには企業に眠る先人の「英知」の獲得が必須である。では先人の「英知」はどこに眠っているのだろうか。筆者が製造業の設計者や開発者と話したときに成果物としてよく挙がるのが「図面」である。確かに図面は製造品の構造を示したものであり、大きな資産である。
しかし、先述した「英知」を求めるのであれば、筆者の考えは少し異なる。図面とは、設計開発における試行錯誤や仮説検証の末に生まれ落ちた集大成であり、検討を完了した瞬間のスナップショットと言い換えることができる。つまり「最終的にそういう形状に落ち着いた」というのが図面である。しかし、それが「英知」につながるかというとそうではない。筆者は、これらの試行錯誤や仮説検証の過程にこそ「英知のもと」があると考えている。
それでは「英知のもと」はどこで得られるのだろうか。
素材を組み合わせるための耐久性やストレス属性を踏まえた考慮点、部品設計における性能目標値を満たすためのパラメータパターン、課題解決のための仮説検証など、これらの試行錯誤の過程の多くは「報告書」の中に記載されている。報告書には、技術報告書、品質報告書、不具合報告書、定期報告書(日報、週報、月報)など、さまざまなものが存在するが、これらの自然言語で記載された報告書こそ、先人の知見が凝縮されているところなのである。
新製品の設計は、突き詰めると既存製品の設計に対して変化点を与えることである。過去の試行錯誤の結果が示されている報告書を適切に参照、分析できれば、目の前の設計における変化点の影響範囲が把握できるだろう。究極的には設計の変化点に対する影響範囲を網羅的に識別することができれば、手戻り作業は発生しないようにすることもできるはずである。
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