クルマの内装に使われるさまざまな素材の組み合わせを、1kgのハンバーガーに見立てた形状で表現するというもの。今回の展示はプロを対象とした展示ではないので、ハンバーガーという誰もが知っているアイテムを使って、クルマの内装素材の組合せの違いによる印象の違いをいろいろ試させる仕掛けは、来場者も手を出しやすかったのではないだろうか。
CASEが進展していくこれからのクルマは、個人の所有の色合いが濃いものと薄いものに分かれていく雰囲気がある。個人所有の色が強めのクルマでは、現状以上にマスカスタマイゼーションへの要望も強まってくるだろう。そうしたシーンでは、顧客自身が触れることのできるCMFバーガーのような手軽なツールも求められそうだ。
これらの作品はいずれも、3Dデータならでの「距離の離れたところで物体を具現化させることができる」という特徴を生かした可能性を探るアイデアに基づいている。離れた場所にいる自分にとって大切な人や、気になる人の元へ、自分の触感を届ける、新しい体験のための道具を届ける、味を届けるなどなど。出力されるアイテムは異なるものの、送り手が誰かのために、いい気分で過ごせる時間を届けようとしており、ギフトとしての3Dデータの使い方という視点を共通するデザインテーマとして感じた。
このデザインテーマは、3Dプリンティングという言葉が一般的になる以前からあるものだと認識している。個人的にワクワクするテーマでもあるのだけど、いい使い方をまだまだ皆が探し、試している段階だなぁ、と感じるテーマでもある。
クルマのインテリアデザインにどのように活用できるかという意味で、今回の展示は何かを示している訳ではない。しかし、今後の時代の流れで「つながるクルマ」が当たり前の世の中になったり、技術や素材の進化に伴って、モビリティユーザーとしてのわれわれの行動が変化してくるときには、新しい使い方も出てくるだろうという期待感はある。
こんな感じで、ざっと気になったものをいくつか思い出しただけでも「1kg」を手掛かりにバラエティに富んだ内容が並んでいて、この展示会は興味深いものだった。会場のアクセス性も、第1会場が丸の内の通りに面しているなど良かったと思う。筆者が会場に行ったのは日曜日の昼下がりだったが、作品を見て回りながら会場を訪れる人の様子も眺めていると、たまたま通りがかってぶらりと中に入ってくる人も結構いたようだ。
そんな様子を眺めていると、クルマのインテリアに絡めた作品とクルマのインテリアとは関係なく発想した作品の両方が混ざっていたことは、ほんの少しこの展示会を分かりにくく感じる人がいたかも? と感じさせられた。
せっかくのJAIDというクルマのインテリアデザイナーが集まった団体が開催する初めての展示会であることや、「GOOD DESIGN Marunouchi」という通りからも中が見える場所を会場としたことを併せて考えると、「1kg×3Dプリンティング」からのアイデアだけでなく、もうひとさじ欲しかったような気もする。展示作品を通して提示された価値が、将来のクルマのインテリアにおいてどのような夢につながっていくのかという「オチ」が共通して見通せるようになっていれば、もっと訴えかけるものになったのかもしれない。
ほんのちょっとの残念、というより惜しいなと感じたところもあったものの、第1会場、第2会場の両方を見ると「一粒で二度おいしい」楽しみ方もでき、全体を通して興味深い展示会となっていた。外部へ向けたアウトプットが、次はどのような形になるのか分からないが、活動が始まってさほど時間がたっていない団体だけに、これからのJAIDの活動に注目していきたい。
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