公差がなぜ今必要なのか? 本当は日本人が得意なことのはず産機設計者が解説「公差計算・公差解析」(1)(3/4 ページ)

» 2019年01月31日 13時00分 公開

部品図設計の例

 次のような寸法のみで部品図設計を行ったとします。

サイズ公差・幾何公差の指示のない図面

 サイズ公差も幾何公差もない部品図ですが、日本国内で加工を行うと……、以下のようになります。

これまでの日本の加工

 6面が垂直、対面が平行となる直方体の形態であり、そのサイズも、100±0.15[mm]、50±0.15[mm]、25±0.1[mm]の範囲に入るJISで言えば精級の規格であり、それぞれの面も平面度が確保されているような部品として加工されてきます。

 また設計者も暗黙知としてこのような部品を、“当たり前のように”期待しています。

 しかし、これを海外で加工した場合はどうでしょうか。

海外での加工での可能性を考えると?:少しひし形になっている部品

 このモデルは少々デフォルメしていますが、ひし形の形状をしています。JIS規格を適用したとしても、海外の規格(※3)だったとしても、加工精度への一般公差の適用が取り決められていない場合、また特定のサイズ公差や幾何公差が図面に指示されていなければ、これまでの日本の期待値とは異なる形体の部品が加工されたとしても文句さえいうこともできません。「これが常識」なのです。

 「日本人的な繊細さと匠の技」としてなされてきたものから、グローバル化する今日、全く同じように製造できるのかと言えば、それを「技術継承」というのであれば、それも難しくなってきていると言わざるを得ません。

【補足】「触ってはならない」――匠の技の弊害

 技術継承には他の課題もあります。ここでお話しているようなサイズ公差・幾何公差が理論的に決められたものであれば、その計算結果や解析結果を残すことで継承可能なのですが、繰り返された経験によって決められたものもあります。

 このような場合、「変更してはいけない」ものとして取り扱う必要があります。すなわち、「触ってはいけない」ものです。

 流用設計の場合、「触ってはならない」この部分の変更を行ったことで、品質問題を生じてしてしまうということがあります。

 リバースエンジニアリング(※4)のように、「なぜ触ってはならないか」ということが理論化・モデル化できればいいのです。しかし、その理由を理論化できない場合、このようなものもまた「技術継承は難しい」ともいえます。これもまた、「匠の技術」の弊害かもしれません。

※4 リバースエンジニアリング(筆者解釈):既に現物がある製品などの形状データを測定することを意味しますが、ここでは経験の中で結果的に得られたサイズ公差や幾何公差の証拠を見つけ理論化することを示しています。

 一方、サイズ公差・幾何公差を“任意に決めようとする場合”は、「チャンピオン」の数値を決めることも少なくはありません。機能性を理解して決める場合も、そうでない場合もこのような決め方は見受けられます。筆者もそのような経験をしてきています。意図的であるのかそうでないかは別にしても、設計者はとにかく「枕を高くして寝ること」を求めるわけです。

 このことは、品質確保を部品加工や製造に依存しているとも言えます。

 設計者の中にも、全体を見て決めることができる“バランス感覚に優れた設計者”が存在しないわけではなく、筆者もそのような先輩設計者を見てきています。しかしこのような設計技術が後進に対して正しく伝承できているのかというと、これもまた、経験的に身に付いた技術であり、必ずしも伝承できていないこともあります。

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