マイニングASICビジネスは先行き見えず……GMOが特損240億円で撤退製造マネジメントニュース

マイニングASICの存在が岐路に立たされている。独自のマイニングASICを開発したGMOインターネットは、仮想通貨マイニング事業で約355億円の特別損失を計上した。マイニングASIC開発で最大手の中国Bitmainも上場手続きが難航していると報じられており、マイニングASICを開発する企業の経営は難しい舵取りを迫られている。

» 2018年12月26日 14時00分 公開
[松本貴志MONOist]

 マイニングASICの存在が岐路に立たされている。インターネットインフラ・仮想通貨などの事業を営むGMOインターネットは2018年12月25日、仮想通貨マイニング事業で約355億円の特別損失を計上したと発表した。

 同年6月に発表していた同社独自のマイニングASIC「GMO 72b」を搭載したマイニングマシンの開発事業は約240億円の特別損失を計上し、同事業から撤退する。発表からわずか半年間の事業展開だった。

7nmプロセスルールを採用するGMO 72b

 また、マイニングASIC開発で最大手の中国Bitmainも香港証券取引所への上場手続きが難航していると報じられており、マイニングASICを開発する企業の経営は難しい舵取りを迫られている。

ビットコイン相場の大幅下落によりマイニングAICビジネスの採算性が見えず

 GMOインターネットの仮想通貨事業では自社マイニングも含んでおり、マイニングファームも自社保有している。よって、同社が製造していたマイニングマシンも一部製品を自社ファームへ回す方針を取っており、マシンに在庫が発生した場合でも自社利用によりマイニング利益が発生する見込みだった。

GMOインターネットの熊谷正寿氏

 同社社長の熊谷正寿氏は2018年6月に開催した記者会見で、マイニングマシンの開発、製造、販売事業について「在庫リスクがないという点で、非常に優れたビジネスだと考えている」との認識を示し、マイニングをゴールドラッシュにたとえ、「ゴールドラッシュではジーンズやスコップを販売した会社がかなり儲けたという歴史的事実がある。GMOでは(仮想通貨事業によって)金自体も掘るし、スコップも作って売る」と語った。*)

*)関連記事:7nmで独自ASIC……GMOが半導体開発に乗り出す理由(EE Times Japan)

 7nmプロセスを採用しハッシュパワーや電力効率に優れているとうたったマイニングASIC「GMO 72b」の開発では、「日本の半導体設計のノウハウと英知を結集した」(熊谷氏)とし同社内に半導体設計チームまで擁したという。同チップ開発プロジェクトに対する投資額は、「100億円に近い数十億円規模」(熊谷氏)。ファウンドリーの7nmプロセス製造キャパシティーが逼迫(ひっぱく)しているため、製造ラインの確保に熊谷氏自らが尽力していたと明かしていた。

 しかし、同社を含めたマイニングマシン開発各社の思惑は仮想通貨相場の大幅下落によって崩れ去ることとなった。ビットコイン(BTC)/円は2017年12月に約240万円を伺う最高値を付けた後、下落基調が続き2018年12月25日の終値は約42万円。この下落要因として、ビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォーク(分裂)を嫌気した売りや、採算悪化に耐え切れなくなったマイナーが退場し需給悪化が加速しているためという読みもある。

 GMOインターネットが発表した自社マイニング事業特別損失の計上理由にも、「足元の仮想通貨価格の下落、想定を上回るグローバルハッシュレートの上昇により想定通りのマイニングシェアが得られなかった」と記載されており、マイニングマシンの開発事業については「需要の減少、販売価格の下落により競争環境の厳しさが増しており、当該事業に関連する資産を外部販売により回収することは困難」と判断したという。

仮想通貨マイニング事業の再構築について(クリックで拡大) 出典:GMOインターネット

マイニングASICの価値創出には仮想通貨相場の安定が必須

 マイニングASICはその名の通り仮想通貨のマイニングに特化しており、GMO 72bではSHA-256のハッシュ関数を高速に演算することで、ビットコインとビットコインキャッシュのマイニングを実行できる。一方で、裏を返せば当然のことながらマイニングASICの他用途への転用は非常に困難だ。

 マイニングASICと同じくCPUよりも高速にマイニングが実行可能なGPUやFPGAについても、2018年に入りマイニング需要が落ち込んだ。しかし、これらチップではもともとの用途に基づく需要が堅調だ。NVIDIAの2019年度第3四半期業績では、ゲーム向けGPUやAI(人工知能)を筆頭としたデータセンター向けGPUが好調で、車載向けでは過去最高の売上高を達成した。また、Xilinxの株価も好業績を受けて上昇基調が続く。

 マイニングASICが再び復権し価値を創出するためには、バブルではない仮想通貨相場の安定した成長を欠かすことができない。しかし、各国政府の仮想通貨に関する規制方針が見通せないことや仮想通貨自体の安定性が疑問視される中、市場の健全な成長も予測が難しい。再びマイニングASICに脚光が集まるには高いハードルが設けられている。

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