外資系への転職を考えたときに、気になるのが「福利厚生」の違いだ。福利厚生は、社会保険料(雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険、介護保険など)に代表される「法定福利厚生」と、家族手当や家賃補助などの「法定外福利厚生」の2つに分けられる。前者の法定福利厚生は日系・外資系問わず企業には義務付けられているもの。一般的に「あの会社は福利厚生がいい」と言われるものは、後者の法定外福利厚生を指す。
企業の裁量で決められるこの法定外福利厚生は、やはり日系企業が充実している。それは日本が長らく終身雇用の文化があり、長期にわたって就業したときにメリットとして感じるものを福利厚生として手厚くしているためだ。終身雇用が多かった日系の製造業は特に、腰を据えて長く勤めてもらうために、企業が意図的に法定外福利厚生を充実させている。
逆に外資系ではこの手厚い法定外福利厚生の分を個人の報酬に上乗せしている。大熊氏によると、転職マーケット平均で見たとき外資系は日系に比べて年収が1〜3割ほど高いという。では、どちらがいいのだろうか?
「あくまでの一つの事例だが、ある大手日系企業に勤めていて住宅補助や家族手当も手厚くもらっていた人が、外資系企業に転職したことろ総支給額としては増えて可処分所得も日系企業時代と変わらなかった、という話もある」(大熊氏)
また外資系企業への転職の第一条件を「英語力」と考える人も多いだろうが、近年はそのハードルも下がっているようだ。
「もともとは『英語が堪能な人』が外資系転職の最低条件としてあったが、近年は『英語に抵抗感のない人』『英語を学んでいきたいと思っている人』と条件も緩和されている。つまり英語に前向きならば、現時点での語学力はさほど問わなくなってきているといえる。面接では英語への意欲を確かめる選考が行われており、英語の質問に答える時の姿勢や、言葉足らずでもいいのでちゃんと話そう、伝えようという意欲があるかを見極めている」(大熊氏)
“諸刃の剣”なイメージのある成果主義だが、外資系全般がゴリゴリの成果主義一辺倒かというとそうでもなく、企業の母国によって違いがあるようだ。
「成果主義は成果を出さなければリストラされるというシビアなイメージだが、それが当てはまるのは米国、韓国、中国を母国とする企業。その一方で、欧州の企業はライフワークバランスや人を大切にする風土があるところが多く、一概にシビアとは言えない面もある。外資系といっても母国によって企業風土が異なるということも念頭に置いてほしい。自動車系は欧州に本社を置く企業が多いので、これに当てはまるケースも多い。自動車メーカーだけでなくティア1、ティア2など欧州サプライヤーも同様」(大熊氏)
人材不足の中で優秀な人材の争奪戦となっている状況で、外資系といえども腰を据えて長く働いてもらいたいのは日系企業と同じだ。また人材のダイバーシティが叫ばれる中で、成果主義だけでは多様な人材の確保に対応できない。柔軟な働き方という観点では先んじていた外資系だが、さらに評価制度を改善していこうという動きが外資系で広がっている。
「評価制度改善への動きは、実際に数社の外資系企業の人事担当者から聞いている。具体的には業績評価や成果評価だけでなく、社員の成長を促すための面談や業務フィードバックを繰り返すようなコミュニケーションを重視した制度を増やしているという。このような制度を取っている企業は、他の外資系企業に比べて離職率も低い傾向が出ている」(大熊氏)
成果主義による高い収入と、柔軟な働き方から生まれるワークライフバランスに加え、しっかりと個人を評価してくれる制度も充実しつつある外資系企業。自分のどのスキルがどのように生かせて、それを生かしながらどのようなキャリアビジョンをその会社で描いていくか。それをしっかり突き詰められる人であれば、外資系企業でも成功を収めるのだろう。
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