「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

100年に一度の変革期、国内自動車ディーラーの進むべき道はIHS Future Mobility Insight(7)(3/4 ページ)

» 2018年09月03日 10時00分 公開

チャネルの役割と販売台数

 日本の自動車販売は、長らくチャネル制度を取ってきた。チャネルごとにカラーを変え、トレンドや顧客のニーズに合わせて拡充したラインアップをチャネルのカラーに合わせて配備し、同一のブランドでありながら展開店舗を変えて地域の中で競争さえ厭わない、という戦略で販売台数を増やしてきた。

 インターネットがない時代は、取り扱い店舗を調べる手段がテレビCMなどの電波媒体または新聞雑誌などの紙媒体だった。そして最も有効な告知ツールの1つが、店舗からのダイレクトメールであり、一度クルマを購入するとその営業担当や店舗と長く付き合うことになり、欲しいクルマがあったとしてもその店舗が属する系列で取り扱いがなければ、似たようなクルマをそこで買うこともあった。

 しかし、市場の縮小、情報入手の手段が多様化、訪問販売の縮小などにより、店舗定着率は低下の方向であり、複数チャネルを維持する理由が薄くなってきた。そういった中で1999年に日産自動車が4系列から2系列へ、そして2007年に全店全車種扱いとし、ホンダは2005年に一本化、マツダは複雑だった5チャンネル体制を、数段階を経て3チャネルとし、2016年に全店全車種扱いとなった。一方、トヨタ自動車はビスタとネッツを2004年に統合したものの、以後レクサスを含め5チャネル体制を取っている(図2)。

図2 図2 各社販売チャネルの変遷概要(クリックで拡大)

 では、トヨタ自動車にとってチャネル制度は販売上有効なのだろうか。2017年度(2017年4月〜2018年3月)の自販連発表のモデル別販売台数を、取り扱い系列別に見てみよう(表1)。

表1 表1 2017年度モデル別販売ランキングと店舗当たりの販売台数(クリックで拡大)

 店舗当たりの販売台数は、販売台数を取り扱い系列の店舗数(2016年調べ)で割った数を、相対的に○△×で分類したものである。もちろん地域特性や店舗の実力などによってバラつきはあるだろうが、おおよそのイメージはつかめるだろう。

 これを見ると、販売ランキング上位を占めるのは全系列扱い車種ではあるが、それらは店舗あたりの台数でみると店舗間のカニバリを起こしており効率は良くはない。一方、単独のチャネルが独占的に取り扱っている車種は高効率である。驚きなのは、ネッツ店専売車種の「ヴォクシー」が、はるかに多い店舗数を抱える日産自動車全系列扱いの「セレナ」を抑えて7位にランクインしていることである。

 専売車種は、それが商品的に強いものであれば店舗にとっては売り易く、全系列扱いの車種よりも台数を稼げるものであることを示している。現在のトヨタ1強ともいえる販売台数は、チャネルとその専売車種を残していることによるものともいえよう。

 しかしながら、では他のメーカーが販売系列を整理したことは台数ボリュームを稼ぐという観点からいうと失敗だったのだろうか。例えばスバル(SUBARU)は、1系列のみで売り続けているが、1店舗あたりの販売台数でいえばスズキ、ダイハツ工業といった軽自動車中心のメーカーを除いて、断トツに多い。これは店舗の販売力以上に、ブランディング、つまりここ10年地道に積み上げてきた安全性のイメージと商品力によるものだろう(それゆえに、最近の完成検査問題によるブランドイメージの低下が販売に与える影響が懸念される)。最近好調な輸入車の1つであるメルセデス・ベンツも、高価格車でありながら、店舗当たりの販売台数でいえば、軽自動車を含めたホンダ店と変わらぬ台数を売り上げる。取扱店数自体は他輸入車ブランドが増加方向であるのに対し、メルセデス・ベンツはここ数年で削減したが台数自体は伸びている。

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