100年に一度の変革期、国内自動車ディーラーの進むべき道はIHS Future Mobility Insight(7)(4/4 ページ)

» 2018年09月03日 10時00分 公開
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販売チャネルの将来

 変化の波は、EVや自動運転技術といった商品機能、モビリティサービスだけでなく、販売店戦略にも押し寄せている。

 日産自動車は2018年4月に、グローバルで統一された新デザインコンセプトを日本にも順次導入し、200店程度をブランド体験型などの店舗形態に移行するとした。ディーラーを全系列化した次のステップとして、車種による切り分けではなく、商圏の市場特性に応じた店舗へ変えることで、ブランディングや販売力強化を図る。

 同年8月初旬にはダイハツ工業がトヨタグループとしての販売網の維持を図るとして、特に過疎地におけるトヨタ系販社との合同店舗を検討していることを明らかにしている。トヨタディーラーが軽自動車販売のノウハウと強い販売力をもつダイハツ工業と組めば、効率的に軽自動車/登録車併有ユーザーの囲い込みを図ることができ、他社には大きな脅威となろう。

 スバルは、新中併売拠点を増やしていく方向である。軽をOEMに切り替え、スバルブランドとしての軽の販売台数が減少する中、特に地方の拠点の効率化を目指す。

 そしてトヨタ自動車は2018年4月に、東京都内の4販社を「融合」させ、2019年4月から新会社の下に各チャネルおよびレクサスを配置し、体制をチャネル軸から地域軸に移すことで、ビジネスモデル変革を目指すと発表した。カーシェアリングなどの新モビリティサービスも台頭しつつあり、プレミアムブランドの店舗もひしめく激戦区で、将来の全系列化も視野に入れた壮大なテストマーケティングだが、一方で西東京カローラを地場系販社ネッツトヨタ多摩に譲渡するなど、直系と地場企業の関係の難しさも伺わせる。

まとめ

 日本国内だけでいえば自動車市場は縮小している。世界的には、当面台数は増加の見込みだが、その内容は電動化のみならず自動運転技術やシェアリングサービスの拡大により、大きく変わる可能性も秘めている。

 そういった大きな変化の中で各社ともディーラーの在り方を模索しているが、ドメインを拡張し「モビリティサービスカンパニー」であることを訴求しているトヨタ自動車が、ディーラーのチャネル系列を残しているのは、将来的に車種による切り分けとその販売窓口という役割ではなく、シェアリングやレンタカー、クルマに限らない移動手段の提供、あるいは本来の車両販売など、顧客ニーズに応じたサービスの提供窓口としての展開を考えているのではないだろうか。

 かつてのカメラ販売店は、家電量販店に移行した後、家具や住宅の取り扱い、ネット通販の強化などユーザーニーズの変化に伴いドメインを広げていった。これと同様に自動車ディーラーも、単に自動車というハードだけでなく、“移動”というソフトウェアなど、果ては人口動態の変化に伴い刻々と変化するニーズに合致した商品/サービスの提供窓口としての変化を問われているのではないだろうか。

プロフィール

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石川 千嘉(いしかわ ちか) IHS Markit Automotive 日本ビークルセールスフォーキャスト・シニアアナリスト

日産自動車をはじめ自動車業界数社で、商品企画から販売促進まで幅広くマーケティング業務に従事。日本を中心に調査に基づく市場分析/戦略立案などを手掛ける。2016年より現職。日本、台湾、シンガポールでの車両販売における市場動向の調査/分析、各自動車メーカーの販売動向の予測/販売戦略の分析を担当。趣味で二輪/四輪レースに参戦していたこともあり、マーケットだけでなくメカニズムにも造詣がある。慶應義塾大学経済学部卒業


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