これについてマツダは「検査員に、速度に注意を払って運転することと、逸脱時間を把握しながら測定試験の可否を判断することの2つを課してしまっていた。逸脱に気付くと検査員は範囲内に速度を戻すことに集中してしまう。本来は、作業に集中できる環境をつくることが品質につながるが、完成検査の測定試験のプロセスには、ポカヨケとなる仕組みがなかった」と説明した。
スズキの場合は、逸脱回数や逸脱の総積算時間はモード走行を終えると表示されなくなり、測定試験後に出力される検査成績書にもトレースエラーに関する情報が記載されない仕組みになっていた。検査員も、トレースエラーの有無を確認することなく、測定を終えていた。また、明らかにトレースエラーだと分かる場合にも見逃すなど、規律に対する意識が緩んでいたことも聞き取り調査で判明したという。さらに、再試験を行うと新車として販売される車両の走行距離が伸びてしまうことから、再試験の実施をためらう雰囲気も現場にあったとしている。
また、ヤマハ発動機では、現場の検査員が「速度が一定の範囲から逸脱してはならない。逸脱した場合は速やかに範囲内に戻す必要がある」という認識は持っていたものの、トレースエラーの場合は再試験を行うという規則や、該当する逸脱時間の秒数などについて周知されていなかった。そのような中、3社の内でヤマハ発動機がもっともトレースエラーの比率が低かったのは、「検査員の技量に助けられていた」(ヤマハ発動機)ためだという。
マツダでは、検査員がトレースエラーの判定基準について理解しており、シフトミスなど明確な運転ミスが発生した場合には再試験としていた。しかし、“ミスをしていない”という思い込みもあり、ブレーキの踏み方がほんの少し緩んでいた場合など微妙なミスを自覚していなかった。「検査員は6カ月の訓練を経て、モード走行で運転する十分な技術を持ったと認められる必要がある。そのため、検査員には強い自負と、正しく運転できている自信があった。測定のログデータをあらためて確認した時に、検査員たちはミスがあったことにショックを受けていた」(マツダ)という。
3社とも再発防止策として、測定装置側でトレースエラーを検知することを挙げた。装置メーカーの協力も得ながら、トレースエラーが発生した場合に試験を無効として中断させ、トレースエラーがあったことを記録として残せるようにしていく。こうした測定装置を導入するまでは、管理職など完成検査担当者以外が測定データをチェックできる体制とする。スズキとヤマハ発動機は、検査に関する教育も徹底していく。
マツダは、燃費や排ガス測定試験に必要なモード走行の自動運転化について「今の技術では難しい」と説明した。「以前にもロボット化を検討したが、エンジンの微妙な違いや、アクセルの深さの差などを踏まえて決められた速度をトレースするのは難しい。検査員のスキルに依存せざるを得ない」(マツダ)。今回、同社はWLTCモードの測定試験ではトレースエラーが0件だったが、これも検査員のスキルによるものだ。「ミスを起こさない、特にスキルの高い検査員で試験を実施しているので、そもそもトレースエラーが発生しなかった」(マツダ)。
今回明らかになった3社のトレースエラーは、燃費や排ガスの測定値に大きく影響するものではなかった。ヤマハ発動機は「ロット内でトレースエラーとそうでないものと比較したところ、排ガス値が1000分の1g/l(リットル)の差だった」と説明。また、マツダも、検査データの平均値は、トレースエラーのデータのありなしで統計的に差がなかったことを明らかにした。
こうした状況などを踏まえて、3社の会見では記者から「完成検査制度の在り方や燃費、排ガスの測定試験そのものに問題があるのではないか」という質問が上がった。
これに対し、ヤマハ発動機は「国際基準は全世界で同じやり方でやらなければならない。日本だけが難しいのではない。法律で定められた基準を、社内の方法論まで落とし込んで順守するのが企業の責務だ」とコメント。スズキ 社長の鈴木俊宏氏は「完成検査の意味はある。制度の意味がどうこうではなく、一定の台数を決められたやり方でできる会社でなければならない」と回答した。マツダも「制度についてコメントできる立場ではない。国からの指示である以上、きちんとしたプロセスを持つことに努めたい」と答えた。
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