2016年にJMCA(日本自動車工業会)が行った、製品設計時における正式図面の3D化の割合(車体とパワートレインの2軸)の調査結果を用いて、程度の差はあれ同業各社ともに正式図面に3Dを用いていることに対し、同社はその表の原点に位置し、その時点で正式図面としての3Dモデルを全く使用していなかったという。
開発段階における構造解析やレイアウト設計で3Dモデル自体は使用しているが、製造部門や取引先に提出する正式図面は2D図面のみだった。昨今の製品の開発効率の観点から危機感を覚え、それがMOTOROiDを開発する1つのトリガーになっているという。
同社は車両開発プロセス効率を高めることを目標とし、2015年末にモーターサイクルの開発部門で本格的に3D開発に取り組むことを決定した。具体的にはCAEを用いて解析の効率を上げる、3Dデータ共有での関係部門や取引先とのコンカレントを実現させるなどを行い、これらを実現させるために選定したツールがNXと、PLMの「Teamcenter」であった。
NXを導入するという新しいプロセスを進めるにあたり、まず同社は役割分担を決め、効率的なプロセス構築に取り組んだ。MC(Motorcycle:モーターサイクル)開発部門は、新しい環境を設計者にどう使ってもらうか、三辺氏率いるデジタルエンジニアリング部は、新しいツールをどう使ったら開発効率をあげることができるか、開発手法の構築や、その環境整備を行った。
これまで同社は内製CADを用いて設計を行っていたが、使い方は設計者に委ねていたという。今回の取り組みは一部のグループだけが知見を得るためのものではなく開発部門全体を底上げする必要があり、部門全ての人間が使えるためのルール作りや、プロセス構築を行った。その実証の場として、MOTOROiDの開発を選んだということだ。
ここまで同社3D化への道筋を連々と書いてきたが、これは筆者の所感だが、NXに関わらず開発環境を全ての人間が使えるようにするルール作りやプロセスの構築というのは簡単なものでない。しかしこれをないがしろにしたまま導入したがために、総崩れになる開発現場もある。
筆者も経験したことがあるが、既に作ってしまったルールのランチェン(ランニング・チェンジ)というのも想像以上に難しい。よって新しい開発環境を導入する際、最初に行うべきことが十分吟味したルール作りやプロセスの構築であり、今後3D化を考えている企業は大いに参考にしてほしいと思う。
NX導入時のルール策定において具体的にどこが参考になるかは後述する3点である
同氏はNXを導入するにあたり、まずその特徴を把握することから始めた。NXは履歴型のソリッドCADであり、過去にさかのぼり履歴を編集できるが、履歴の若いフューチャを編集すると更新時間がかかる。また、NXにはシンクロナスモデリング(履歴を残す、残さないを両立することができるモデリング手法)、ダイレクトモデリング(履歴の上書き修正ができるコマンド)という強力な機能があるが、使い方を間違えるとせっかく組んだ履歴が崩れてしまうという、いわば“両刃(もろは)の剣”ということだ。
これらのことから、履歴が長くなるモデルに対しては、1つのモデルで作ろうとせず、機能ごとにモデルを分割し、WAVEリンク(パート間の関連付けができる機能)などを用いて、最後に統合するという手法をとる。
また、履歴のグループ化を活用し、今ここで何が行われているかを記録として残し、設計当事者だけでなく、他の設計者に分かるように履歴の整理を行った。さらには前述のシンクロナスモデリングの使用可能箇所を定義した。
意匠設計(スタイリングデザイナー)とMC設計者(仕様検討、全体設計)、さらに3D設計者という役割を決め、この3者が一同に介しコラボレーションしながら開発を行い、結果として200近い部品を新作したが、設計者2人、3D設計者2.5人(兼務のため)体制で2.5カ月で作り上げ、東京モーターショーに間に合わせることができた。
MOTOROiDでは3Dモデルを正とし、2D図面は必要最小限にとどめ、それによって開発期間を大幅に短縮できた。これによる得られたフィードバックは、3Dモデルを正とすると検査基準が決めにくくなること、公差中央モデルが必要になる場合があったこと、XVL(3D軽量化フォーマット:主に3Dモデルのビュー用フォーマットとして用いられる)を活用し、関係者との意思疎通を図ることができた。
筆者がNXを新しく導入しようと考えている企業に対しフォローを行う際、ほぼベストと思える手順や仕組み作りが網羅されている。所々に出てくる失敗談も、おそらく考えられる最小のものではないかと感じた。
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