設備保全への活用では、まず、定期点検サイクルの精度を上げることが重要です。例えば、金型のメンテナンスといっても何百、何千とあると個々の型のメンテナンスの管理を手作業で行うことは困難です。個々の金型の生産実績の履歴から将来のメンテナンス時期を算出することでタイムリーなメンテナンスにつながります。金型のような消耗工具は、モノづくりを行う上でたくさんありますので、同じやり方が適用できます。
もっと高度な活用としては、故障することにより長期停止につながる重要な部位については常時動作状況を監視しておいて、異常な信号が来た際に通知することで、故障発生を未然に防ぐことです。これを、故障の予兆を捉えることから「予兆管理」といいます。
この異常値の判断については、AI(人工知能)の活用例として、主に切削工程を中心に導入が増えています。高度な活用としては、工具の強度と波形の両方を見ておき、できるだけ早く加工を終えることと交換時期を長く伸ばす工夫をすることで、保全にかかるコスト削減につなげる例が先進企業を中心に出てきています。予兆管理は、新設の設備ではすぐに故障につながらないため効果が出るのは先になります。しかし、品質保証体制強化と併せて導入することにより、投資対効果を分散できることがメリットとなります。
品質保証体制強化は「品質保証プロセスの確保」や「異常対応の迅速化」が図れていることが前提としてあります。その上で「不良ゼロ」「設備停止ゼロ」「保全費の削減」といった定量的な効果を出すことで「高度な品質保証プロセスの確立」により社会の信頼を勝ち取ることができ、継続的な取引拡大につながるのではないかと思います。
本連載は今回で最後になりますが、最近現場の方からIoT活用は「新たな人減らしの手法なのではないか?」といわれることが多くなりました。「これまでは、動作分析を行うと『ストップウォッチ』や『ビデオ撮影』をした揚げ句、問答無用で人減らしが行われ現場が疲弊してきた。この手法がもう限界なので、IoTを活用せよと経営トップは言っているのではないか」ということなのです。
これが仮に本当だとすると現場から人がいなくなった先にモノづくりが正しくできているかのチェックや、問題発生時の対処⇒是正は誰が行うことになるのでしょうか。今のAIでは、人の能力を代替するにはまだまだ限界があります。
現場からのこのような悲痛な叫びが、組織の途中階層で隠蔽(いんぺい)されることなく、客観的な数値で全社一丸となって対処できる組織づくりを切に願います。
(連載完)
本連載を執筆しているアムイ 山田浩貢氏が、参加費無料の「個別IoTお悩み相談会」を随時実施しています。詳細はこちらから⇒http://amuy.jp/request.html
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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