IoTの活用が広がりを見せていますが、上手に活用すれば製品品質の向上につなげることも可能です。本連載では、最新の事例を紹介しながら、IoTを使って製品の品質をどう向上させるかについて説明していきます。第4回となる今回は、「QAネットワークの最新動向とAIの適用」をテーマに解説します。
製造業におけるIoT(モノのインターネット)活用を製品品質向上にどう生かすかを説明する本連載。前回の「MESを使ったトレーサビリティー」では、MES(Manufacturing Execution System)について説明しました。第4回となる今回は前回も触れた「QAネットワーク」とAIの適用について解説します。
「QAネットワーク」は、トヨタ自動車とその系列会社が使用している品質保証体系を構築するための技術の1つです。簡単に目的と機能を説明します。「QAネットワーク」の目的と機能を簡単に説明すると、本連載の第2回でも説明した自工程完結のプロセス管理の一部であり、現状の不具合の発生防止と、流出防止のレベルを定量化し、改善施策を実施することにより、品質保証のレベルを向上させるためのものです。通常は、製造段階(特に最終組み立てなどの、アセンブリー段階で有効)で使用されていますが、さらに上流の開発や設計段階での適用も可能です。
図1はQAネットワークのサンプル事例です。組み立て段階におけるコネクターの接合作業を例に説明します。
表の下段にある「コネクター(改善前)」では改善前の状況が示されています。「接続時にクリッと音がする」や、「(材料が)外から見える」などは“0”となり、これらが発生するのを防止できていないということを示します。
こうした状況を防ぐ、発生防止策は通常4M(人、材料、方法、設備)の観点で出されます。改善前の状況をまず見てみましょう。改善前の発生防止の観点での得点は「設備」のみの「1」となり合計点も「1」です。ということで、上のレベル基準表と照らし合わせると、発生防止の観点では「レベル4」であることが分かります。一方で、流出防止の観点でみると、こちらも「器具」での得点「1」のみで合計得点は「1」です。こちらもレベル基準表と照らし合わせると「レベル4」であることが分かります。つまり、改善前は発生防止の観点でも、流出防止の観点でも「レベル4」であり、左上の評価からすると自工程完結レベルは「- -(ダブルマイナス)」ということになります。
これらに対し、コネクターの新機種導入時に改善した場合はどうなるでしょうか。発生防止の観点では、4Mそれぞれで発生防止策を行い「人」「材料」「方法」「設備」でそれぞれ得点「1」となり合計点は「4」となります。これは「レベル1」を示します。一方で流出防止の観点でも「目視」「器具」のそれぞれで得点「1」を獲得し合計得点は「2」です。これは「レベル3」となります。これらの結果から自工程完結の評価を見ると「+」となることが分かります。
上段のレベルの基準表は、どのような製品や作業でも、共通の指標である自工程完結レベル(最低”- -“から、”最高”+ +”)に適用させることができるために非常に重要なものです。これらを基準とし、現場でさまざまな施策を実施することで「得点」を獲得し、こうした取り組みを継続していくことで、品質向上を実現していくのです。
実際のQAネットワークは、現状ではスプレッドシートで入力されたものが多く、非常に大きな表になってしまうケースが多いです。例えば、自動車開発においては、車両全体で600種類にもなります。アッパーボディー系はスタイリングの関係もあり、使い回しできる施策を出すのが多少難しいですが、アンダーボディー系は、比較的、共通部品も多いことからうまく使うことができます。
最近では、QAネットワークがきちんと整備できていない場合、量産開始が承認されません。グローバル化が加速される中、不良の発生防止と流出防止の2つの観点で価値を生むQAネットワークがますます重要になってきています。日本人の技術者なら簡単に対応できるFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)やFTA(Fault Tree Analysis)が、海外現地生産が進む中でその国のメンバーだけで運営することが難しいためです。こうした背景を受け特に、この10年で海外でもQAネットワークの利用が進んでいます。
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