特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

中国がバブル崩壊を防ぐ救世主として選んだIoTMONOist IoT Forum 大阪(後編)(1/3 ページ)

MONOistを含むITmediaの産業向け5メディアは、セミナー「MONOist IoT Forum in 大阪」を開催した。後編では、IHS Markitのランチセッションと、その他の講師の講演内容をお届けする。

» 2018年02月13日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

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 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの産業向け5メディアは2018年1月24日、大阪市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 大阪」を開催した。大阪での開催は2017年に続いて2回目となる(※)。前編「工場IoTは既に実益が得られる手段、カギを握る目的と協創」ではスマートファクトリーの動向についてお伝えしたが、後編では、IHSマークイットのテクノロジー・メディア・コミュニケーションディレクターである南川明氏のランチセッションと、その他の講演についてお伝えする。

(※)関連記事:IoTが生み出す深さ、製造業は顧客のビジネス全体を支援する時代へ

なぜ中国はIoTに向かうのか

 IHSマークイットの南川氏は「IoT(モノのインターネット)の未来展望〜中国がIoTに向かわなければならない理由がある〜」をテーマとし、IoTの全体動向と中国における取り組みの加速について紹介した。

 南川氏によると、グローバルでIoTが広がりを見せている背景には、社会問題の解決があるという。南川氏は「全世界的な社会課題として3つのメガトレンドがある。1つ目は人口増加、2つ目が高齢化、3つ目が都市集中化である。世界各国でこれらの問題を解決するために政策を進めているが、これらのほとんどがIoTに関連する。IoTを活用してこれらを解決しようという動きが広がっているために、全世界的にIoTに関連する大きな動きが生まれてきているのだ」と述べる。

photo IHSマークイットのテクノロジー・メディア・コミュニケーションディレクターの南川明氏

 社会課題という観点から見た時、中国は世界的に見ても多くの課題を抱える国だといえる。南川氏は「中国では直近の2年半で外貨準備高が減少しており、国としての財務諸表が悪化している。『世界の工場』として工場が最も外貨を稼いでいた。背景として人件費が過去10年間で4倍に増えている。さらに経済を支えるために国内のインフラ投資を積極的に進めてきたが、作りすぎてしまった」と中国の現状について述べている。

 例えば、インフラ投資において、中国が使ったコンクリートの量は全世界の生産量の60%を占め、米国で100年間かけて使用したコンクリートの総量をわずか3年間で上回ったという。しかし、現在の状況はこれらのインフラ投資を経済サイクルに生かせていない状況となっており「負のサイクルに入りそうになっている。GDP成長を支える手段がなくなってきている」と南川氏は語る。

 こうした状況を防ぐために取り組むのが、IoTをキーテクノロジーとしたさまざまな経済政策である。まず中国を起点としてアジアから中東、アフリカ東岸、欧州を陸路の「一帯」と海路の「一路」で結ぶ「一帯一路」がある。これはこの「一帯一路」に含まれる国家間で経済政策、インフラ、投資・貿易、金融、人的交流の5分野において、緩やかな経済協力関係を構築し、経済発展を実現しようというものである。国内インフラ投資が限界に達しつつあるので、海外に目を向けたともいわれている。

 また「科学技術イノベーション2030」なども打ち出す。重大プロジェクトとして、航空機エンジンやガスタービン、深海探査船、量子通信と量子コンピュータ、脳科学と人工知能、ネットワークセキュリティ、宇宙探索機および宇宙探索機軌道上での任務、メンテナンスシステムなどを挙げている。中国では、CO2規制などについても全く規制がないような状況から、2025年に一気に世界最先端の規制を導入するとしている。南川氏は「CO2規制を実現するためにも電気自動車(EV)の普及が必須となる。そのためEV化への動きは中国ではさらに加速する見込みだ。一方で、自動車全てがEV化した場合、電力が不足する。中国では『だから原子力発電所を建てる』という考え方だ。世界と中国の動き方はそういう意味では大きく異なっている」と中国の独自性について訴えている。

 そして製造業への施策として打ち出したのが、中国版「インダストリー4.0」ともいわれる製造業発展政策「中国製造2025」である。これは現在の製造大国である中国から2025年には製造強国といえるレベルに引き上げていく取り組みである。さらに、2045年には世界でも最高クラスの技術を持ち、世界をリードできるような確固とした製造強国へと成長する目標を示している。「中国はスマートファクトリー化への動きを一気に進めており、さらにB2Cのスマート化などの動きが早いスピードで進んでいる。世界でも最先端のスマート社会の実現に取り組んでいる」と南川氏は説明する。

日本のエレクトロニクス産業が目指すべき道

 こうした状況は日本の製造業にとっては、厳しい状況のようにも見える。しかし、南川氏は「特にエレクトロニクス産業にとってはIoT化で大きなチャンスをつかむことになるだろう。日本には電子部品やアクチュエーターで世界のトップメーカーが数多く存在する」と強みについて述べている。また、今後のIoT化に向けて、エレクトロニクスで必要な技術として「半導体と電子部品の融合が進む」と南川氏は述べている。

 さらに材料や基板などでも強みを持っており「IoTで重要なカギを握る、材料、電子部品、モーター、基板の4つの要素を高いレベルで保持しているのは日本だけである。現状では、どの企業やどの領域の企業が主導するようになるのかは分からないが、こうした状況は世界から見ると脅威に映ることだろう。さらにIoT化が進む中で、使われるものを小さく作るということが大事になるが、その領域も日本にとっては強みを発揮できる領域だ。「日本のエレクトロニクス産業は非常に良いポジションにあり、チャンスをつかめる可能性が高い」と述べている。

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