機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回はJIS製図における「サイズ」「サイズ公差」「幾何公差」について考える。
前回は、4M要素によるバラツキの存在と、設計者としての適切な公差設定の必要性についてお話をさせていただきました。私は、機械設計における公差計算と公差設定とは、「機能性を考え、バラツキを考えた上で、どんなサイズを設定し、そのサイズ公差と幾何公差を設定するのか」と定義していますが、そもそも、「サイズ」「サイズ公差」「幾何公差」とはいったい何なのでしょうか。
「今さら当たり前のことの何を聞くの」と言われてしまいそうですが、公差計算と公差解析のお話を理解していただく上では、ここを押さえていただくことが必要です。今回から、基本的な内容を振り返りながら、公差計算・公差解析の話を進めていくことにします。
私が初めて、製図に触れたのは中学校の「技術」の課目でした。T定規と製図台、ケント紙に向かって、木で作る「本棚」や板金で作る「ちりとり」を製図したことが初めてだったような気がします。この製図に必要とされるのが、寸法・サイズ公差(寸法公差)・幾何公差・材質・個数になります(中学校でサイズ公差(寸法公差)や幾何公差を入れたかは定かではありません)。
大学に入ると、「製図」の講義と実習がありました。JIS(Japanese Industrial Standards:日本工業規格)製図について、そのJIS規格や図面への表記方法を学びました。皆さんはいかがでしょうか。ここで学び、そして今でも日常的に使用する「寸法」「寸法公差(サイズ公差)」「幾何公差」とは何なのでしょうか。
以降はJISを引用して説明をしましょう。いくら設計者とはいえ、日々、JISのWebページから検索したり、経済産業省のWebページからJIS制定やJIS改正情報などを入手しようとしたりしている人は多くいるとは思えません。設計室の片隅にあるJISの本が改訂されることもなく、購入当時の古いままでいることを気にもかけていない人もいるかもしれません。私もその一人でした。
私の会社では、機械要素JIS要覧が用意され、定期的に出版社の方が来社して更新しています。しかし前回もJIS規格についてお話ししたような、設計に関わる内容について改正されていたことがあったことを知りませんでした。その一例について紹介します。
この規格は、平成28年(2016年)3月22日に制定されています。この規格ではその適用範囲として、「円筒および相対する平行二平面の2つのサイズ形体の長さに関わるサイズに対する標準指定演算子並びに特別指定演算子について規定する」「これらの長さに関わるサイズのための指定条件およびその図示方法について規定する」と記述されています。
正直これだけを読んだのでは、私は理解できません。今回はサイズ形体についてお話することとして、演算子については別にお話したいと思います。
また、サイズ形体を示す例は次の2例のようになります。
これを見て「?」と思われるかもしれませんが、この例を見ている限りでは、これまで普通に「寸法」と呼ばれていたものが、「サイズ」と呼ばれるようになっただけに過ぎません。
では「寸法」という語句はJISから消えてしまったのでしょうか。
このように、現役の規格でも「寸法」という表現がありますので、なくなったわけではなさそうです。それではなぜ、「サイズ」という呼び方に変わったのか。
「JIS第4章 寸法公差の規格」が、「GPS(製品の幾何特性仕様)」に対応したからであり、従って、国際規格として国際的に承認された「寸法(長さ)」に関して、「サイズ」についてのISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)の公差方式が対応したからではないかと私は考えています。
すなわち「サイズ=GPS(Geometric Product Specification)」ということです。「サイズ」を私なりに定義するのだとすれば、私は「サイズ形体を決めるための長さや角度の大きさ」としています(あくまでも私の考えであり、公式なものではありません)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.