本連載では産業全体のVRの動向や将来展望について深堀りして解説していきます。今回は、産業用VRを取り巻く環境についての現状の最新動向について説明します。
製造業VRエバンジェリストの早稲田です。今回は予告していた「産業用VRシステムのユーザー活用事例」という予定を変更して、産業用VRを取り巻く環境についての現状の最新動向について述べたいと思います。
筆者が開発にかかわる「pronoDR」(プロノハーツ)はCADデータに対応する廉価VRシステムとして、2015年に登場しました。現状国内で登場している「Oculus Rift」や「HTC Vive」などの廉価HMDが使える産業用VRの中で唯一、処理をクラウドに依存せず完全オフライン処理が可能なことが特長です。既に重工メーカー、プラントメーカー、特殊車両キャビンメーカーなどに採用実績があります。既に公開可能な事例があり、幾つかのCAD系のセミナーでも紹介されているので、本連載の次回で事例紹介を予定しています。
pronoDRの登場から2年、他にも、CADデータが扱える廉価な産業用VRシステムがどんどん増えるかと思っていたのですが、国内外問わず、筆者が思っていたほど増えていません。現状、存在するシステムとしては、以降に挙げるものがあります。
まず「AR CAD Cloud」(ホロラボ)は、「HoloLens」(マイクロソフト)を使ってCADモデルを見るシステムです。CADデータからポリゴンへの変換、HoloLens用への大規模リダクションがクラウド処理なのが特徴です。以前、筆者がホロラボに問い合わせたところ、まだユーザーの導入に至った事例がないとのことでした。もし近々、ユーザー導入事例が登場し、次回の記事に間に合えばぜひ紹介したいと思います。
「Symmetry Alpha」(ディヴァース)は、建築分野でよく使われるSketchUpファイルに対応しています。3Dモデルのミニチュアがモデルのサムネイルになっているなど、最先端のUIが特長です。Simmetry Alphaをリリースしたディヴァースは米国に法人を持ち、日本においても積極的な技術開発や資金調達を行っており、今後もっと成長が予想されるシステムです。
その他に、ユーザーの用意したCADデータをそのまま読み込める汎用(はんよう)システムとは異なりますが、積木製作から「VROX」という高品質映像がセールスポイントのシミュレーターが、NECからも作業訓練シミュレーターが登場しています。
2017年の前半まで、ゲームエンジンとCADのデータの連携ソリューションは「Unity CAD Importer」(ユニティ・テクノロジーズ)だけだったのですが、2017年7月末に、アンリアルエンジン用の「Datasmith」(エピック ゲームズ)が発表されました。Datasmithは20を超えるデータ形式に対応しているということですが、エピック ゲームズからの最初の発表以降、続報がありません(記事公開時点)。
また、オートデスクのゲームエンジン「Stingray」がFBXデータのエクスポートを中心に、CADデータをゲームエンジン内に取り込むワークフローを提唱していました。しかし、CADデータ特有の「ソリッドカーネルがそもそも面の表裏ということを気にしていない」という問題への対処策が特にないなど、実用についてはまだ道半ばといった印象でした。オートデスクは2017年12月にStingrayの2018年1月7日に開発と販売を終了し、その機能を「Maya LT」「3ds Max」に組み込むと発表しています。また2017年10月リリースの「Unity 2017.2」ではFBXファイルのインポート・エクスポート機能が提供されています(関連記事:ゲームエンジン「Stingray」の開発が2018年1月で終了、今後はMayaや3ds Maxの機能に)。
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