ロボットの“頭”をクラウド側にも用意し、ロボットのコミュニケーション能力が高まったとすると一体何が起こるのだろうか。
人間に7万年前に起こったこと同じようなことが、現在の社会でロボットに起ころうとしている。「あるロボットが新しいことを学んだら、その体験を他のロボットとその知識を共有するということが起こり始める。これはまだ始まっていないが、近い段階で始まることだと思っている」とプラット氏は断言する。
コミュニケーションのスピードについてみると人間は、1秒間におよそ10ビットの情報を送れるという。しかし、ラップトップコンピュータやロボットの情報送信能力は1秒当たり1G(10の9乗)ビットである。このようにコンピュータ、ロボットのコミュニケーション能力は人間よりも圧倒的に高いということがいえるのだ。
また、一般的な人間は同時に1人か多くても2人の言葉しか聞き取れないが、コンピュータは同時におよそ100万以上の端末から情報を取得することができる。「お互いにクラウド上でコミュニケーションが取れるということは、ロボットのコミュニケーション能力は人間よりもはるかに長けているということになる。コミュニケーションの進化が人間にとつて非常に重要だったように、これから先、ロボットの進化にも同じように重要になるだろう」とプラット氏と述べる。
さらに「どうすれば機械学習を単一のコンピュータだけではなく、何百万のコンピュータに分散型で学習させることができるか。コンピュータが莫大な情報量に圧倒されないよう、不必要な情報を排除し、関係があるものだけに絞れるようにどうするか、ということが重要になる」とプラット氏は付け加えた。
プラット氏は、今回の講演でロボットと人間に関した3つのタイプの感情移入(共感)について紹介した。それは「ロボット間の共感」「ロボットと人間の間での共感」そして「ロボットとロボット研究者との共感」だ。
ロボットと人間の間の共感については、ロボットが人間に近づき過ぎると「怖さ」が出てくる。それが「不気味の谷」現象だ。人間のロボットに対する感情的の反応だが、ロボットがその外観や動作において、より人間らしく作られるようになると、好感的、共感的になったり、ある時点から嫌悪感に変わったりする現象だ。
しかし、ロボットが転んだ時に人間はどう思うかという実験で「かわいそうに思う」というように、「人間がロボットに感情移入している」というケースが見られた。「この問題は今後研究を進めていく必要があるが『不気味の谷現象』は技術の進歩により克服できる」とプラット氏は語る。
ロボットとロボット研究者の共感についても研究が進められている。ビルの外ではコミュニケーションが図れたが、内部では通信環境の悪化により、コミュニケーションが取れなくなるという実験環境の中で、人とロボットのコミュニケーションが悪くなった場合どうするか、この状況をどう乗り切れるかが実証された。
実験ではオペレーターはロボットの行動を、コミュニケーションが取れなくても予想できることからPredictive model(予測モデル)をベースに用いた取り組みが行われている。例えば、被災地で人間が防護服などを用いらなければ入れない場所で、ロボットが人間に代わって復興活動に取り組む場合があったとする。当初はロボットと人間のコミュニケーションが問題となった。人間と連絡が取れない中でどのようにロボットを動かすか、人間とロボットのインタフェースが懸念された。ただ今ではこうした課題も次第に克服されつつあり、それぞれのコミュニケーションが発展していることをプラット氏は強調した。
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