FabFoundryの創業者である関信浩氏が米国東海岸のハードウェアスタートアップ企業の動向を紹介する本連載。第1回は、相次いで設立が続く個別空調スタートアップの動きを解説する。
米国では5月は卒業シーズンです。スタートアップを短期教育する「アクセラレーター」が成果を発表する「デモデー」も数多く開催されました。そのうちの1つ、AlphaLab Gearのデモデーで既視感を覚えたのがHiberSenseのプレゼンテーションです。
HiberSenseは各部屋に空調センサーを設置することで、温度や湿度、部屋にいる人数や明るさ、空気の汚染度などをモニターし、「部屋ごとに最適な空調を実現する」というビジネスを模索しています。
これは、日本の感覚ではなかなかピンとこないかもしれません。日本では各部屋に個別にエアコンが設置されている家庭が多いので「部屋ごとに最適な空調」というのが当たり前になっています。しかし、米国ではセントラル空調(集中管理)の家やビルが大多数で、キメ細かい空調がなかなかできないという問題があります。この解決にHiberSenseが取り組んでいるということになります。
このソリューションに既視感を覚えたのは、HiberSenseのプレゼンテーションを聞く少し前に、別の投資家向けプレゼンテーションで、スマート空調用IoT(モノのインターネット)デバイスを販売するKeen Homeが発表していたからです。
Keen Homeは2013年に創業したニューヨーク発のスタートアップ企業。「Smart Vent」(84.99ドル〜)と呼ばれるIoT製品を部屋にある換気口に取り付けることで、部屋ごとに空調を調整・管理するサービスを提供しています。利用するには、別売りのクラウド一体型デバイス「Keen Home Smart Bridge」(39.99ドル)を購入し、さらに専用スマートフォンアプリを連携させる必要があります。Googleが買収した、エアコンの温度調整が可能なIoT製品「Nest」と連携して、センサー情報の利用やエアコンの制御も可能です。
Keen HomeのCEOであるNayeem Hussain(ナイーム・フセイン)氏によると「これまでに3万6000台を販売し、今後は年間で500万ドル(約5億5000万円)の売上高を目指している」とのことです。既に400万ドル(約4億4000万円)以上の資金調達をしていたと見られ、そのときのプレゼンテーションでは、さらにシリーズAの資金調達をしようとしていました。
Keen Homeの製品は既にAmazon.comなどでも販売されていますが、それ自体は「空調口を自動的に開閉するだけ」というとても地味な製品です。特に高機能というわけではありません。日本人からするとKeen HomeおよびHiberSenseの製品は「個別空調? そんなの日本の技術力からしたら当たり前だよ」「スマホから操作? それだってもう日本では実現できているよ」と、注目に値しないと考えてしまいます。
しかし彼らのビジネスの面白さと将来性を正しく理解するには、もう一歩踏み込んで考える必要があります。なぜなら2社のサービスの本質は、いかにハードウェアが優れているかどうかではなく、ネット活用およびデータ収集によって生じ得る「新たなサービスの創造」にあるからです。
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