デジタルツインを実現するCAEの真価

コンタクトレンズや膝関節をオーダーメイド開発するSAoE 2017レポート(1/2 ページ)

少量製造や個人計測などの技術を活用した、個人向け医療機器の開発が進みつつある。ダッソーのイベントから、コンタクトレンズの設計自動化と、人工膝関節における筋骨格モデルとFEAを連携させた事例を紹介する。

» 2017年07月07日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 2017年5月16〜18日に米イリノイ州シカゴで開催されたダッソー・システムズのユーザーイベント「Science in the Age of Experience(SAoE) 2017」では解析事例が多数発表された。その中から、有限要素解析ツール「SIMULIA Abaqus」や最適化ツール「SIMULIA Isight」を用いたオーダーメイドの医療機器開発の事例を紹介する。

コンタクトレンズは再びオーダーメイドへ

 米オプティマル・デバイス(Optimal Device LLC)社長のRobert Stupplebeen氏は、コンタクトレンズのカスタマイズ設計に取り組んでいる。イーグレットアイ(Eaglet Eye)の角膜トポグラフ装置と、コンタクトレンズ設計の自動化を組み合わせることにより、従来より短時間で品質の高いオーダーメイドレンズの製造を実現するという。

オプティマル・デバイス 社長のRobert Stupplebeen氏

 コンタクトレンズは従来、完全な個人仕様だった。「ボシュロムが量産技術を開発してのち既製品になった背景がある。技術の進展によって、再び個人仕様に戻っていくとみている」(Stupplebeen氏)。

 コンタクトレンズは、眼球の前面にある角膜を覆い、視力矯正などを行う医療機器である。コンタクトレンズは角膜に乗せると内側の空気を追い出し、吸気圧力によって目にくっつく。

 通常のオーダーメイドでは、検眼医(アメリカなどにおける視力測定などを行う専門医)や眼科医などの専門家が、患者の目の屈折誤差や角膜曲率半径を角膜測定器で計測する。そしてカスタムレンズ加工者とともに、勘と試行錯誤によって患者にフィットするレンズを作っている。Stupplebeen氏はデータ取得を角膜トポグラフ装置で行い、レンズ形状の最適化を自動化することによって、繰り返し作業を減らしつつ、個人によりフィットしたレンズを設計・製造する。

患者一人一人に合わせた医療機器に必要な技術は

 Stupplebeen氏は、パーソナライズド・メディカルデバイスを多くの人に行き渡らせるために必要な技術は以下の3つだと述べた。すなわち生体測定、シミュレーションの自動化、そして個別製造である。「外部に装着するものでも体内に埋め込むものでも、これらのプロセスは同じだ。なお個別製造は3Dプリンタだと思われがちだが、そうとは限らない」(Stupplebeen氏)。

 コンタクトレンズは、基本的に基材を旋盤で切削して作られる。ハード・ソフトともに製法は基本的に同じで、ほかにも場所によって硬さの違う材料もあるという。かつては軸対称の加工しかできなかったが、現在は非軸対称の加工も可能になっている。

 解析に関しては「コンタクトレンズは材料としてとても複雑だ」とStupplebeen氏はいう。「まず超弾性の性質を持っている。またゴムは切れる直前に固くなるが、レンズ材料も同様に条件によって応力が変わる。低反発的な挙動も示す」(Stupplebeen氏)。また体温にさらされると硬さが半分になるため、温度条件も重要になる。最も複雑なのが塩分濃度で、涙の中の塩分によって材料特性が変化する。Stupplebeen氏はこれらの解析にSIMULIA Abaqusを用い、生理食塩水中での変形などの実験との合わせ込みも行った。

一連の作業を自動化する

 Stupplebeen氏が目の形状のデータ取得に使用しているのが、パートナーのイーグレットアイによる角膜トポグラフ装置(図1左)によるという。「角膜以上のサイズの形状を測定できる装置を持つのは同社だけだ」(Stupplebeen氏)。眼球の高さ、もしくは球形からの逸脱のマッピングを行うことができるという。

図1:イーグレットアイの角膜トポグラフ装置(左)と、同装置によって眼球形状を測定した結果(右)。目は完全な軸対称ではない(出典:ダッソー・システムズ)

 作業の流れは以下のようになる。角膜トポグラフ装置で得た点群データを、CATIAのDigitized Shape Editorにインポートする。CATIAのQuick Serface Reconstructionで角膜のNURBUSジオメトリを生成。続いてSolidWorksでプリ処理を行う。シミュレ―ションにおいては、超弾性材料物性、大変形、すべり接触など、複数の非線形解析を行う。そしてジオメトリを調整し、装着時の快適性やフィット感を最適なものに決定する。これらの一連の作業は全て、SIMULIA Isightを利用して自動化できるという。

図2:コンタクトレンズの圧力分布の解析。圧力分布は快適性やフィット感に関わるという(出典:ダッソー・システムズ)
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