同社は、設立から約3年余、CMOSイメージセンサーの設計を請け負う受託事業のみを生業としていた。現在は設計から量産までを受けることが多いものの、受託事業は今でも同社ビジネスの中心である。受託の場合は、とりわけ高性能が要求されるニッチなものが多く、8Kスーパーハイビジョンもその一例。高い要求に応えることで技術力は磨かれるが、設立当初から「自社ブランドの製品を作りたい、モノづくりをしたい」という強い思いがあった。小さな会社は研究開発資金の調達に苦慮するのが常だが、支援事業などを活用し、今では3つの自社製品を世に送り出している。
1つは超高速度イメージセンサー「BT130A」である。生活環境程度の光量で超高速撮影が可能で、しかも低ノイズ、低消費電力。カメラを小型化できるため、FA、バイオ、医療、スポーツ、生態観察、製品検査など、これまでのハイスピードカメラ以上に多くの用途が考えられる。
2つ目は、高解像度イメージセンサー「BT3300N」。世界で初めて、8Kスーパーハイビジョンのフルスペック規格に対応したものだ。放送カメラ向けで開発されたセンサーだが、既に医療や監視の分野へ応用する動きも出始めている。
3つ目は、超高感度イメージセンサー「BT130C」。ノイズが非常に小さく、暗がりでも情報を取得できるため、監視や科学計測などの分野で使われる。
「CMOSイメージセンサーはトレードオフのかたまり」と青山氏は言う。速度、解像度、感度はその代表的な要素だ。用途、要求に応じて特に突き抜ける性能を持つ3製品だが、そのトレードオフを可能な限り良いバランスでチューニングできるのも強みだ。
同社にはもう一つ、「日本の工場で作りたい」という思いもあった。日本はもともとイメージセンサーに強く、特にCCDは日本でしか製造することができなかったという歴史がある。「CCD製造でイメージセンサーのノウハウを積上げてきた人たちが作るCMOSセンサーは、圧倒的に性能がいい」と青山氏は言う。しかし日本の名だたる半導体メーカーは、ファウンドリサービスを提供していなかったため、海外で製造するしかなく、日本で作ることは同社の悲願だった。日本の半導体メーカーが、ファウンドリ事業を展開し他社の製造を引き受けるようになったのはここ数年のこと。同社の技術をフルに発揮できる環境が整ってきているのだ。
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