さて話を戻すが、Cat.M1の送信電力は20dBmと23dBmの2つが用意されている。これは省電力のためだが、ただそうなると到達距離が減ってしまうという危険性がある。Cat.NB1ではsingle-toneという方式でこれに対処したが、Cat.M1では複数のサブフレームを使って、同一のデータを繰り返し送信することで、特にSN比の悪い状況で15dB程度のカバレッジ拡張を実現するという実装が行われている。この際には、同一周波数を利用して連続してサブフレームを再送するのではなく、周波数ホッピングを利用して1つのLTE送受信帯の中のあちこちの周波数で再送をかけることで、効率よくカバレッジを改善するという仕組みが用意されており、これで到達距離を補う形だ。
もう1つ重要なのが省電力である。Cat.NB1ほど通信帯域を落とせば省電力性能の確保は難しくないのだが、Cat.M1クラスだとさすがに相応の消費電力となる。実際用途を考えると、バッテリー駆動だけというケースはそう多くないと考えられるが、だからといって省電力性への要求が小さくなるわけでない。こうしたことを考慮して、Cat.M1とCat.NB1には共通の省電力機構が盛り込まれている。
まずはeDRX(extended DRX)。もともとLTE Release 8の時点で、常時受信ではなく間欠的に受信を行うようにして、受信を行わない待機中はRF部を停止することで省電力化するDRX(Discontinuous Reception)と呼ばれる仕組みが用意されているが、eDRXではこの待機の時間を大幅に伸ばした。
Cat.M1の場合は最大43.96分、Cat.NB1では最大2.91時間待機させることが可能となっており、この間はトランシーバーをスリープ状態以下にすることで消費電力の削減が可能になる。ちなみに通常のLTEの場合は、この待機時間は最大でも10.24秒(Cat.M1では5.12秒)となっている。トランシーバーの消費電力に限って言えば、このeDRXを利用することで、単三電池2本で4.7年のバッテリー寿命が確保できるとする。
さらに長い時間待機させたい、なんていう場合にはPSM(Power Saving Mode)が利用できる。こちらは最大10日以上通信せずに済むので、このモードをフルに活用した場合は単三電池2本で10年以上のバッテリー寿命が確保できるという話だ。
このPSMモードの活用例として考えられるのが、例えばレンタカーやカーシェアの運行管理だ。まだレンタルされていない、営業所や駐車場で待機状態のケースでは、通信は最小限でいいから、PSMモードに入れておくことで無駄にクルマのバッテリーを消費しないで済む。そして運行中は普通に通信しながら車の状態や位置情報を営業所に送るといった使い分けが可能になる。eDRXは、例えば運行はしていないが、まだ返却されていない(出先の駐車場にいる)なんて場合に利用できるだろう。
Cat.NB1同様にCat.M1も既にトライアルが始まりつつある。KDDIは2016年6月からCat.NB1とCat.M1のトライアルを開始しており(KDDIのニュースリリース)、Altair Semiconductorのチップセットを利用して検証が行ったことを明らかにしている。
ちなみにAltairの「Fourgee-1150/6401」という製品はもともとCat.0向けのものだが、ソフトウェアアップデートによりLTE Release 13に対応できるとしており、これがCat.M1相当で動作すると思われる。
海外でも、オランダのLPNがエリクソン(Ericsson)のモデムチップ「MDM9206」を使ってCat.M1のトライアルを開始することを2016年12月に発表しており、今後さまざまな国のキャリアによって、トライアルが順次始まってゆくことになるだろう。
これがキャリア主導というのは、先述した通り、基地局をRelease 13に準拠させないとCat.M1が利用できないことを考えると致し方ないところではある。しかし、Cat.NB1とは明らかに異なったマーケットがターゲットになるので、Cat.NB1と共に2017年にはよりトライアルが活発になってゆくと思われる。
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