自動運転技術の躍進に関する記事が連日のように新聞を賑わす中、読者の中には自動運転はすぐそこまできているような感覚を覚える人もいるだろう。しかし実際には、自動運転車の導入はまだ先のことだ。自動運転車実現に向けて、いかにクルマを設計していくかという点について語ったのがMIT AgelabsのBryan Reimer氏だ。
Reimer氏は、米国における致命的な交通事故の95%弱が、飲酒やドラッグ、無謀運転などによる人的要因に起因しているとの調査データを取り上げた。また、軽微なものやニアミスを含む事故の約80%が、発生直前3秒以内のわき見運転に起因しており、その多くがスマートフォンの利用であるというToyota InfoTechnology Centerのプレゼンなどに触れ、人がステアリングを握っている以上、これらの数値は変化することがない」と指摘している。
このような人的要因による事故は自動運転車の実現により大幅に削減されるとして期待されている。確かに技術的には可能かもしれない。アダプティブクルーズコントロール(ACC)やADASなど、ドライバーを支援し事故を回避するシステムが急速に発展しつつある。しかし、実際にはその時々の状況や環境、ドライバーの適応力、心理状態など、技術だけでは解決しきれないさまざまな状況が想定される。Reimer氏は、そのような事態にいかに対応していくかについて取り組んでいる。
Reimer氏は、自動運転を実現する上で重要な要素として、コンピュータビジョンや画像処理、ビッグデータ解析などに加え「人間心理」を挙げている。これはよくあるような自動運転車に対する恐怖心や不信感ではない。人間そのものの特性への対応である。よって実際に実証実験などを行う際に心理学者も同席しているとのことだ。
自動運転車と人間との関係でよく語られるのは、例えばどのようにしてマニュアル操作と完全自動運転を引き継ぐか、完全自動運転時のクルマや周辺状況をどのようにして把握するか、完全自動運転時に突如人間の操作が必要となった時に人間はすぐ対応できるか、といったことである。これらの難問に対して技術だけでは解決できないのが人間の心理というわけである。
残念ながら人間は、理性的な意思決定者ではない。加えて同時に複数のことができると過信している。こういった人間の心理というものが自動運転実現の大きな壁になり得るとReimer氏は指摘する。例えば、クルマが自動運転モードに入って間もなくは、人間は一種の緊張状態にあるためクルマの動きに注意が払われている。しかし、20分もたてばすぐにその状態に慣れてしまい、全ての責任は自動車にあると思ってしまう。その結果どうなるか。
自動車はさまざまな状況に対応できるように設計されている。しかし最も予測不能なのが人間の行動なのである。つまり、自動運転車が何らかの人間の手助けを必要としたとき、人間が即座に反応できるかどうかが課題となる。
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