転がり抵抗の低いタイヤの採用や車体の軽量化も、風の影響を受けやすくする要因となっていたという。また、前述の通り、相良テストコースは気象条件に左右されて正確な走行抵抗値を測定しにくい環境だった。
燃費を左右する走行抵抗値が大きくばらつき、正確さを期すことができないのでは、設計で意図した通りの燃費が測定試験では出ないということにもなりかねない。「現場に燃費を良くしようという悪意はなかった。しかし、法令に沿わない手法をとるのは安易な判断だった」(本田氏)。
車体軽量化や転がり抵抗の低いタイヤの採用は、燃費改善のためスズキに限らず自動車メーカー各社が取り組んでいることだ。
「車体の軽量化や転がり抵抗の低いタイヤが惰行法での測定に影響するなら、惰行法自体が時代にそぐわないのではないか」という質問に対し、本田氏は「時代に合っていないという考えはない。自動車メーカーが共通の条件を課されて順守している中で、われわれだけができていないとすれば単に力不足ということだ」と答えた。
走行抵抗は空気抵抗と転がり抵抗からなる数値だ。本来の惰行法では、テストコースを実際に走行し、一定の速度の範囲内を減速するのにかかる時間を計算式に当てはめて算出する。一方、スズキは“風の影響がない的確なデータ”を得るため、空気抵抗と転がり抵抗を分けて測定して足し算する独自の手法で走行抵抗値を算出していた。
スズキは三菱自動車とは異なり、惰行法での走行抵抗値の測定自体は全てのモデルで実施していた。その測定データも社内に残っており、空気抵抗と転がり抵抗を合算して算出した走行抵抗値の妥当性を判断するための目安として参照していた。
スズキは、測定装置をフル活用することで走行抵抗値を算出した。風洞試験装置にCd値(空気抵抗係数)と前方投影面積を設定し、惰行法で定められた車速ごとの空気抵抗を測定していた。転がり抵抗は部品単位で試験装置を用いて測定した。
「転がり抵抗に関係するユニットとしては、タイヤ、ディスクブレーキの引きずり、ホイールベアリング、トランスミッション、車両のアライメントがある。これらを部品ごとに惰行法と同じ条件を設定して測った。これらの転がり抵抗の総和を車両全体の転がり抵抗とした」(本田氏)。
こうした独自手法の測定に必要な設備が社内にそろったのは2010年だった。この測定が行われたのは、スズキが国内向けに生産/販売する全車種16モデルで、累計で210万台に上るという。「現場では惰行法以外で走行抵抗値を測定することをさほど深刻には考えていなかった。ばらつきの少ない正確なデータを測定することに重きを置いていた」(同氏)。
会長の鈴木氏は「現場が惰行法での測定に苦労するあまり、装置での測定に走ったと聞いている。設備投資の至らなさを反省している。今回、状況が明らかになったので、(現場から苦労を相談できる)風通しの良い組織にしたい」と語った。
相良テストコースには防風林の設置など「惰行法が効率よく行える環境を直ちに整える」(鈴木氏)という方針だ。
惰行法ではない独自手法による走行抵抗値の算出が行われていたのは以下の16車種。2016年発売の「イグニス」や「バレーノ」も含まれる。
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