デジタルツインを実現するCAEの真価

開発期間を従来の半分にしたIHIのCAE実践――ロケットエンジン設計から生まれた「TDM」CAEイベントリポート(2/5 ページ)

» 2016年04月08日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

後戻りをなくす

 製品を作る際はまず顧客の要求があり、それを元に設計案を作成、CAEや実験を行い、要求を満たしていなければ前の工程に戻るというサイクルを回すのが一般的だ。だがIHIでは開発期間を短縮するため、この後戻りをなくす一方向プロセスの実行に取り組んだ(図3)。

図3:セットベースドデザインでは、全体集合(セット)を最初に求め、そこから望ましい設計解を選択する(出典:IHI)。

 後戻りのない設計を行うためには、設計の自由度の高い上流側でなるべく、複数の評価指標をバランスよく成立させた設計を行う必要がある。これは教科書にも書いてあるような当たり前のことだが、現実には難しい。その理由は、ある程度モノの形がなければCAEを実行できないからだ。

 IHIでは後で設計、解析をし直す必要がないように、顧客の要求条件などは考えず、まず自分たちが取れる設計範囲に対して総当たりで計算した。次に得られた大量の解析データを、顧客の要望などでフィルタリングし、最適な設計モデルを選ぶ。これであれば設計変更が発生しても、フィルタリングのし直しによって対応できる。つまり「最適解を求めるのではなく、既にある解から最適解を選ぶ」という考え方だ。

 呉氏は液体酸素、液化天然ガスを推進薬とするロケット2段目用の新型エンジンの開発を例に、この手法を解説した。燃費、寿命、燃焼の安定性、製造に対するロバスト性の4つを評価指標とし、それを求める計算を1万回行った(図4、5)。

図4:第2段に用いられるロケットエンジン(出典:IHI)
図5:設計解の全体集合を作成(出典:IHI)

 計算リソース上、可能なら直接計算し、そうでなければ応答曲面法を使うという考え方で進めればよい。あくまで計算はこの一度だけで、設計変更のために繰り返し計算を行うということはしない。

 かつてはCAEの実施回数が少ないほど開発コストを抑えられ、開発期間も短縮できるといわれてきた。現在はコンピュータがスピードアップ、低コスト化しているため、「計算はやれるだけやった方がさまざまなメリットを享受できる」と呉氏は述べた。

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