なぜ「ドイツ連邦政府がコミットメントした」ことが大きな意義を持つのでしょうか。矢面氏はさらに印出氏に話を聞きます。
どうしてドイツのモノづくり革新プロジェクトが、日本の製造業に大きな影響を与えたんですか。
大きくは2つあると思うわ。1つ目は、IoTを活用した製造現場の理想像を明確なイメージで発信できたという点が最も大きいわね。IoTは決して新しい技術や概念ではないわ。だけど、製造立国であるドイツが次世代のモノづくりの姿を明確に発信したことで、IoTが自分たちの製造現場や設計現場にどんな影響を与えるのかがイメージできるようになった。これが大きな推進力を生んだといえるんじゃないかしら。
「第4次産業革命」をもたらすものとして大きな注目を集めているIoTですが、実はそれほど新しい技術や概念ではありません。大学の研究などでは1990年代から登場していますし、2000年代に一部流行した「ユビキタス(もとは宗教用語。いつでもどこでも存在するの意味)」というコンセプトも現在のIoTに通じるものがあります。また、コマツの「KOMTRAX(コムトラックス)」をはじめ、一部企業ではセンサーデータを活用し、データ分析による付加価値創出に取り組んできた事例なども存在しています。
しかし、これらが業界全体のうねりになることはありませんでした。長い期間を経てもここ数年までは、IoTをビジネスの最前線で実際に使おうという動きはそれほど高まったとはいえなかったのです。4〜5年前くらいからはICTベンダーを中心に、ビッグデータ分析などと組み合わせてかなり積極的なプロモーションが行われてきましたが、多くの製造業はほとんど耳を貸してこなかったといえます。
第1回でも紹介しましたが、IoTの活用は「明確な正解例」が見えている状況ではありません。そのために「IoT=まずテスト」のように実証活動が熱心に行われているのでしたね。また、IoTそのものが現場のセンサーデータなどを活用することなどを考えると、どちらかといえば現場発でこそ生きる技術だといえます。ただ、製造現場から見るとIoTを導入するメリットがよく分からない状況でした。一方で、ICTベンダーなどの提案は経営寄り過ぎて、実際の現場のイメージを喚起するような「言葉」を持っていなかったといえます。
「インダストリー4.0」も現在進行形ですので、現段階でどこまで具体的かといわれると難しいところもありますが、製造現場側のイメージを喚起し、IT部門と共通の認識で話ができるようになったという点で大きな価値を生んだといえるのではないでしょうか。実際にこのドイツの動きを皮切りに、米国でも産業用IoTの社会実装を進めるIIC(インダストリアルインターネットコンソーシアム)が生まれましたし、日本でもロボット革命イニシアティブ協議会の「IoTによる製造ビジネス変革WG」やIVIなどが誕生しました。第4次産業革命の動きは全てが「インダストリー4.0」に内包されるわけではありませんが、1つの大きなきっかけとなったといえるでしょう。
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