統計の食わず嫌いを直そう(その10)、ワインを飲まずに品質を予測する方法山浦恒央の“くみこみ”な話(82)(2/3 ページ)

» 2016年02月26日 07時00分 公開

3. ワイン界の価格予測法

3.1 プロの予測

 最も単純なのは、プロに評価してもらい価格予測をすることです。例えば、ワイン界の帝王のロバート・パーカーに試飲させ(*4)、彼が「このボルドーは1982年物に匹敵する高品質だ」と言えば、おおよその品質と将来的な価格を予測できます。実際、パーカーが高得点を付けたワインは、価格が急上昇し、瞬時に市場から消えます。パーカー・ポイントは、典型的なKKD(勘、経験、度胸)方式と言えます。

(*4)100点法で世界のあらゆるワインを評価するアメリカのワイン評論家。元弁護士ながら、驚異の試飲能力を持ち、パーカー・ポイントは高級ワインの価格を一方的に決めてしまうほど強烈な影響力を持っていて、「ワイン界の帝王」と呼ばれています。パーカー・ポイントの内訳は、基礎点(出席点みたいなもの)が50点、色5点、香り20点、味わい20点、熟成の可能性5点。トマス・マケイブの循環的複雑度(cyclomatic number)と同じぐらい怪しいメトリクスですが、世界中のワイン愛好家だけでなく、生産者も大注目しています(私も)。

3.2 統計学を応用した予測

 プロの経験による予測と対照的に、「数学の帝国」といわれるアメリカのプリンストン大学の経済学者、オーリー・アッシェンフェルター(もちろん、大のワイン好き)が統計的な手法でボルドー・ワインの価格を予測する数式を発表しました。1984年のことです。従来のプロによる評価法には、「出来立てワインから将来の味を予測するのは困難」「KKD(勘と経験と度胸)に頼るため、素人が評価できない」という問題があります。それぞれの問題点について、解説します。

3.2.1 出来立てワインから将来の味を予測するのは困難

 ワインを試飲して評価する最初のタイミングは、樽で熟成している段階です。しかしこの状態ではボトルに入っておらず、商品になっていません。生まれたての赤ちゃんを見て、「この子は将来、世界的なピアニストになる」と予想するようなものです。

 評論家は樽からボトルに詰めた直後に試飲しますし、何年かおきにチェックします。ワインは生き物ですので、味や熟成の可能性は年々変化します。樽に入った状態での試飲では最高品質と評判になり、30年後が楽しみと言われたのに、瓶詰めの10年後からへたり始めたり、その逆もあります。これが、ワインの面白いところです。トップ・プロの予測が外れることもあります。

3.2.2 KKDに頼るため、素人が評価できない

 ワインを評価するのは、その道のトップ・プロです。当たり前ですが、素人が簡単に評価できるものではありません。

 上記の2つの問題から、アッシェンフェルターは素人でも価格予測できる方法を模索しました。ワインの味、香り、熟成の可能性を従来の予測法でなく、天候だけで予測する数式を考え出したのです。ワインはブドウだけを原料としており、天候の良い年は、良いワインができると考えました。過去の天候のデータと、ワインの価格のデータを大量に収集して分析し、両者の相関関係を求めたようです。これがいわゆる「アッシェンフェルターのワイン方程式」です。

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